研究課題/領域番号 |
15H02143
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中川 毅 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (20332190)
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研究分担者 |
池原 研 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 首席研究員 (40356423)
佐川 拓也 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (40448395)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 層位・古生物学 / 地質学 / 第四紀学 / 地質年代学 / 気候変動 / 年代測定 / 水月湖 / 若狭湾 |
研究実績の概要 |
水月湖と若狭湾それぞれのコアから得られる情報を横断的に管理するために、専用のプラットフォームとしてソフトウェア(LevelFinder Duo)を開発した。LevelFinderはもともと、一つの堆積盆から得られる複数のコアおよびそのデータを対比する目的で作られたソフトウェアであるが、複数のLevelFinderを同期させることで、地点をまたいだ対比およびデータの比較を可能にした。 花粉分析は、水月湖の1.6-3万年前の層準からおよそ150サンプルに対して実施した。その結果、いわゆるD-Oサイクルに相当する1000年スケールの変動は、存在するものの振幅がきわめて小さいこと、それに対し、いわゆる歳差運動に対応する温度と降水量の変動は大きいことが確認された。 火山灰分析は、水月湖の晩氷期に対してマイクロテフラ分析を実施した。また、すでに公表されていた可視テフラについて微量元素の分析をおこない、給源の特定をおこなった。 若狭湾沖コアについて、研究の最も基礎となる層序概要を日本海後期第四紀堆積物の暗色層層序とテフラ層序を組み合わせて確立した。また、ノイズとなるイベント層の認定をおこなった。とくにWB6コアについては、年代モデルを構築するため,浮遊性有孔虫殻の放射性炭素年代測定を7層準について行った.その結果,WB6コアには大きな堆積速度の変化が見られず,上部482 cmが過去約3万6千年間に連続的に堆積したものであることが明らかとなった.さらに,ここで得られた年代モデルに基づくAT火山灰の堆積年代は,水月湖年縞堆積物中に確認された同火山灰の堆積年代と整合的であり,本研究課題の目的である若狭湾沖と水月湖の記録対比に適した堆積物であることがあらためて確認された.浮遊性有孔虫殻の炭素酸素安定同位体,Mg/Ca分析については約100試料が終了した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに水月湖および若狭湾から採取されたコアは、合計でじつに21本に達する。これほどの量のコアから並行的に得られる情報を統合して俯瞰することは容易でなく、自分たちのデータの解釈、ひいてはプロジェクトの進行そのものにとって障害となっていた。この問題を抜本的に解決するため、相当の時間を投入して、複数地点のコア情報管理を容易にするソフトウェアを開発した。これにより、プロジェクト最大の不安要因は解消した。今後は、水月湖と若狭湾の対比に基づく議論が円滑におこなわれると期待される。 上記ソフトウェアの開発に注力した分、花粉データの生産はやや小数に留まった。だが、上記のプラットフォームが完成したことと合わせれば、おおむね順調な進展であると評価できる。 火山灰分析は、水月湖については期待以上に進展した。いっぽう若狭湾については、バックグラウンドが高すぎてマイクロテフラの分析が困難であることが判明した。全体としては、相殺して「おおむね順調」であると評価できる。 若狭湾沖航海で得た堆積物コア6本について、おおよその堆積年代の推定,厳密な深度管理に基づくサブサンプリング,分析準備等を行ってきた.そして,本研究課題の目的遂行に適した堆積物コアを選定し,年代モデルの構築や古海洋環境の復元が進められている.特にダンスガードオシュガーサイクルが顕著であり,本申請課題で注目している5万年前から3万年前の時代について表層水温や生物生産等の千年スケール変動が明らかに成りつつある.この区間において2cm間隔で分析した浮遊性有孔虫Globigerina bulloidesの炭素酸素安定同位体比とMg/Caの結果は堆積物の明暗と同調しており,日本海南部における千年スケールの環境変化を確実に捉えられることが確認された.水月湖との気候記録対比に向けておおむね順調に作業が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、水月湖の1-5万年前の層準から200サンプルの花粉分析を実施する。また、3-5万年前の層準に対してマイクロテフラ分析を実施する。マイクロテフラ層序については、今年度中に論文を投稿することをめざす。また花粉分析についても、今年度中に暫定版の結果を論文にまとめ、投稿することをめざす。 若狭湾沖で採取された6本のコアのうち、水深845m地点で採取されたWB6コアが本研究課題の目的達成のために最適であることが明らかになった。今後はWB6の解析に集中し、まずは放射性炭素年代の分析層準を増やして年代モデルを向上させる。また、昨年度までに浮遊性有孔虫の同位体とMg/Caの分析を2cm間隔で行ったことで明暗互層と海洋表層環境の対応関係をある程度まで把握することができた。これらの対応関係をさらに厳密に議論するために、有孔虫分析の解像度を色測定が行われた1cm間隔まで上げる。さらに、堆積物の明度変化の要因を明らかにするために堆積物中の有機炭素含有量と有機炭素同位体比を分析し、生物生産や有機炭素供給源などに関して議論し、東アジア地域の千年スケール気候変動が日本海の海洋環境に与えた影響を考察する。 今年度秋を目安に、研究協力者であるオックスフォード大学のメンバーを日本に招待し、国内のメンバーと合同でミーティングをおこなう。その際、これまでに得られた情報のすべてをLevelFinder Duo上でコンパイルし、その層序的・年代的整合性、ならびに分析データの意義について、集中的に考察と議論をおこなう。
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備考 |
本研究は、大きな文脈では2006年にはじまった「水月湖年縞堆積物プロジェクト」の一環に位置づけられる。このプロジェクトの成果を公表するための恒常的な施設として、福井県立水月湖年縞展示施設(仮称)の建設が決定した。
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