研究課題/領域番号 |
15H02161
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
岡本 裕巳 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (20185482)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | プラズモン / キラリティ / 化学反応 / 不斉化学分析 / 走査プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では(a)研究方法論の基盤としての近接場円偏光二色性(CD)顕微鏡の拡張と高感度化の取り組み,(b)金属ナノ構造周辺のキラル化学場の解析,(c)不斉化学反応場・不斉化学分析への展開,を柱として計画した。本年度は(a)としてまず,現有の近接場CDイメージング装置(円偏光した光を試料に照射し,近接場透過光を偏光を分離せずに検出)を拡張し,直線偏光した近接場光を試料に照射し,透過・散乱する光を左右円偏光に分けて観測するシステム(偏光分解近接場光学活性イメージングと呼ぶことにする)を構築した。これにより,局所的な光のキラリティに関する情報,ナノ物質を励起するモードに関する情報がより直接的に得られ,高い不斉光学効果を得るための検討に大きく寄与すると考えられる。長方形金ナノ構造の偏光分解近接場光学活性像を観察し,極めて信頼性の高い結果を得た。次に,局所的なCD検出の感度を向上するために,従来の光弾性変調器による方式(特定の直線偏光成分の混入が不可避で,直線偏光二色性の信号への寄与が問題)に替わる,新たな円偏光変調方式を開発した(特許出願中)。これによるファーフィールド顕微鏡を構築し,金属ナノ構造の透過像及びCD像を観測したところ,透過像でほぼ回折限界に近い光学像,またCD像ではそれよりもさらに高い分解能が得られた(CDの信号の両極性によると考えられる)。次に,金の二光子発光特性を用いた,近接場二光子励起確率CDイメージング法を開発し,これを金ナノロッドに適用した。(b)として,長方形やロッドの金ナノ構造について得られた局所光学活性について,電磁気学計算等による解析を進め,少なくとも定性的に観測結果をよく説明する結果を得た。(c)として,長方形格子状の金ナノ構造を用いた反射型旋光分散解析により,キラルな超分子の検出を,グラスゴー大学との共同研究として行い,感度よくキラル超分子の検出が可能であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
偏光分解近接場光学活性イメージング,近接場二光子励起確率CDイメージング等の新しい近接場光学活性イメージング手法,感度向上に寄与する新たな円偏光変調方式の開発が当初の想定よりも早く進んだ。またそれらによって得られた解析も順調に進んでいる。グラスゴー大学との共同研究によって,アキラルな金ナノ構造に誘起されるプラズモンによるキラル超分子(植物ウィルス)の高感度検出にも成功し,現在そのさらなる拡張を目指した研究展開を行っている。研究計画の3つの項目(a)(b)(c)ともに,順調に推移しており,特に(a)は想定よりも進んだと考えており,当初計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
偏光分解近接場光学活性イメージングについては,得られた結果について理論的な解析をさらに進め,論文として取りまとめる(既に原稿執筆に着手した)。また可能であれば,長方形以外の形状のナノ構造体に対しても観測と解析を実施する。近接場二光子励起確率イメージングについては,論文原稿とりまとめまでほぼ終了しており,これをブラッシュアップして投稿する。今後のキラルプラズモンの実験的解析において,適宜この方式を利用する。新たな円偏光変調方式については,ファーフィールド顕微鏡観察の成果に関して,論文原稿執筆が進んでおり,完成後投稿する。この方式については,近接場光学顕微鏡に組み込むことを計画しており,今後これを進める。また得られた実験結果に関して,電磁気学理論シミュレーションや,簡単な物理モデル等により解析を進め,キラルプラズモンと光のキラリティに関する理解,またより高い光のキラリティを得るための指針を得る研究を進める。格子状金ナノ構造を用いたキラル超分子の分析に関しては,対象とする超分子(ウィルス)の種類を拡張し,それらの応答の差を検討するとともに,状況に応じて単位格子の形状を変更した実験も試みる。これらの成果を論文としてとりまとめて公表する。光化学反応への展開として,フォトレジストの光重合をアキラルな金ナノ構造と共存させて試みており,この実験を再現性を含めてさらに進め,円偏光励起による不斉誘起の可能性を探る。さらに,分子レベルでの不斉誘起を目標として,研究を推進する。この際に,前述の新しい円偏光変調方式による顕微鏡観察手法等が有効性を躍起すると期待される。
|