研究課題
グラフェンは,エレクトロニクス,センサー,触媒,エネルギー貯蔵など,広範な実践的応用を可能にする鍵材料として有望である.この材料に電子欠損性のホウ素原子を組み込むことにより,n型半導体特性を付与できる.本研究では,ホウ素ドープグラフェンの基礎化学を確立するために,そのモデルとなるナノグラフェン材料のボトムアップ合成を進めるとともに,ホウ素を導入することによってこそ得られる特異な物性,現象の追究を目的としている.本年度は主に以下の成果を得た.1)ホウ素ドープナノグラフェンを用いた化学吸着能を利用した塗布薄膜形成:ホウ素の導入の一つの利点は,ホウ素のルイス酸性/配位数変化を利用した化学吸着能を付与できる点であろう.この特性の応用として,ホウ素ドープナノグラフェンの溶液プロセスによる有機薄膜トランジスタ作製の可能性を明らかにした.本質的に溶解性が低い多環芳香族π電子系化合物を,ホウ素へのルイス塩基の配位により溶解性を一時的に改善し,デバイス作製を行い,その後加熱処理することにより高度に秩序化された無配位π電子系の半導体性薄膜を作製できることを実験的に示し,ホウ素を導入する利点を明快に示した.2)ホウ素ドープによる不安定化学種の生成・安定化:ホウ素をグラフェン骨格に導入するもう一つの利点は,ラジカルやアニオンなどの不安定化学種の安定化にある.本年度も引き続き,すでに合成に成功しているホウ素架橋平面固定トリチルラジカルの応用に取り組み,ホウ素安定化有機ラジカルのambipolar電荷移動特性の発現の詳細について検討を進め,バンド計算やEPR測定を行い,モットトランジスタとしての性能の追求における問題点を明らかにした.現在,この成果を取りまとめている段階にある.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,ホウ素ドープナノグラフェンのボトムアップ合成を機軸に,ホウ素を導入するからこそ実現できる物性,機能の探索に取り組んでいる.特に,1) 一連のホウ素ドープナノグラフェンの合成と修飾,2) ホウ素ドープグラフェンナノリボンの精密合成,3) ホウ素ドープによる不安定化学種の生成および安定化,4) ホウ素ドープナノグラフェンを用いたセンシング能の4点に焦点を当て検討を進めている.このうち,2)に関しては昨年度に達成し,引き続き1)と併せて検討を進めている.今年度は,3)と4)の項目について特に進展が見られた.特に3)の,ホウ素のルイス酸性に基づいた化学吸着能を利用した溶液塗布による薄膜形成は,ホウ素ならではの特性といえ,ホウ素を含むπ電子系材料の展開の重要な方向性を示す結果である.また,4)のホウ素安定化ラジカルも,電子機能性付与のためのホウ素の使い方の新たな方法論と位置づけられる結果であり,その詳細な解析も順調に進んでいる.概して,当初の計画通り順調に研究展開できていると評価できる.
最終年度にあたる2017年度は,上述の研究をさらに展開したい.特に次の3点に取り組む.(1)ホウ素ドープナノグラフェンの合成化学:これまで種々のタイプのホウ素ドープナノグラフェンの合成に取り組んできたが,その中でも特に異種ヘテロ原子ドープナノグラフェンの合成を進め,有機エレクトロニクスデバイスへの応用についても検討を進める.(2)ホウ素ドープによる不安定化学種の生成・安定化:ホウ素をグラフェン骨格に導入することにより,ラジカルやアニオンなどの不安定化学種の安定化が可能なことをこれまでに示してきた.これらの成果を纏めあげるとともに,新たなホウ素安定化ラジカルの合成に挑む.ホウ素安定化有機ラジカルの最大の特徴は,ラジカルであるが故のambipolar電荷移動特性の発現であり,この特性をさらに強化するには固体状態の配向制御が重要である.それを可能にする誘導体の合成に取り組む.(3)ホウ素ドープナノグラフェンの化学吸着能を利用した機能発現:ホウ素の導入の利点として,ホウ素のルイス酸性/配位数変化を利用した化学吸着能の付与が重要であることを既に示してきた.この特性の更なる展開として,自己組織化能の付与の可能性について追求したい.これが実現できれば,外部刺激応答性材料への展開も可能であり,ホウ素化学の新たな方向性を示すことにつながる.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 2件、 招待講演 9件)
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