研究課題/領域番号 |
15H02185
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 健 京都大学, 化学研究所, 教授 (30258123)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラマン / ROA / パーフルオロアルキル化合物 / SDA理論 / 構造物性相関 |
研究実績の概要 |
アルキル基の水素をすべてフッ素に置換したパーフルオロアルキル化合物は,他の化合物群には見られない特異な物性を示すことで知られ,多くの実用的事例がある。中でも撥水撥油性は,水と油という2元系では絶対に説明不可能な現象で,このため苦し紛れに「フルオラス性」という造語によってこの特異な性質を引き受け,実用的には問題を回避できてきたように見えた。しかし,この現状はパーフルオロアルキル化合物の分子構造から物性がまったく予見できない限界を示し,それはすなわち分子設計ができないという致命的な問題をはらんでいた。 本研究課題では,フルオラス性を完全解明し,分子設計可能な化合物系にパラダイムシフトさせるための基礎学理の構築に取り組んでいる。当研究室では,世界で初めてフルオラス性を統一的に説明可能な階層双極子アレー(Stratfied dipole-arrays; SDA)理論を提唱し,その正当性を実験と主体に証明する取り組みを行っている。 本課題の主目的であるパーフルオロアルキル基のヘリックスの右巻きと左巻き分子ドメインを識別する研究にとって,パーフルオロアルキル化合物の赤外およびラマンスペクトルの徹底理解は欠かせない。H29年度には,CF2対称伸縮振動バンドが,パーフルオロアルキル基の長さとともに高波数シフトする特異な現象を,ラマンスペクトルの測定から解明する研究に取り組み,その全貌を明らかにした。 現在,ラマン分光器に1/4波長板を組み込み,配向した分子凝縮系でのラマン光学活性(ROA)の測定に取り組み,イメージング測定の実現に向けて努力している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,ROAイメージングの装置を組めばすぐに目的が達成できると踏んでいたが,実際にはパーフルオロアルキル化合物に関する振動分光法に致命的な未解決問題があることに気づき,その問題解決に時間を割いた。このため,計画より進捗に遅れがあるが,学術的に不足していた部分を大きく埋めることに成功しており,トータルとしては想定以上の成果をあげていると言ってもよい。
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今後の研究の推進方策 |
ROA測定は,通常,量子化学計算と組み合わせて実施するのが通例で,その場合,分子は無配向であることが必要である。しかし,本研究では,右巻きと左巻きの「区別」ができればよく,そのスペクトルが量子化学計算と合う必要はまったくない。このため,これまでにない発想の転換が必要である。 また,薄膜系での非共鳴ラマン測定を高精度に行う必要があり,通常の「高SN比は高倍率対物レンズが必要」という概念も大きく変えて新しい技術を確立する必要がある。本年度は,これらの課題の克服に挑戦する。
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