研究課題/領域番号 |
15H02187
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊原 博隆 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (10151648)
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研究分担者 |
永岡 昭二 熊本県産業技術センター(ものづくり室、材料・地域資源室、食品加工室), その他部局等, 研究主幹 (10227994)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超分子ゲル / π共役系ポリマー / 増幅キラリティ / 円偏光発光 / 分子形状識別 / センシング |
研究実績の概要 |
本研究は、分子形状識別を基本とした高性能分離を実現する吸着剤開発を目指し、分離剤の新しい形態・構造を提案・実証するものである。本年度は、前年度までの成果を踏まえ、以下のような研究を実施した。 (1)分子識別ツールとして、ポルフィリンを錯形成官能基とする分子ゲル形成ツールを作製し、分子ゲル形成能を、電子顕微鏡観察、蛍光特性、増幅キラリティにより検証した。得られたポルフィリン自己組織化体が2次キラリティや円偏光ルミネッセンス(CPL)を生成することを確認した上で、センシング材料として応用した。具体的には、低分子アミン類に対する応答性をCPLによって検出することに成功した。 (3) 分子ゲルを利用したセンシングへの応用を目指して、ベンゾチオフェンを官能基とする分子ゲルおよびカチオン性官能基を有する分子ツールと蛍光色素からなる2成分系分子ゲルを作製し、室温リン光やCPLを生成する分子ゲルシステムの開発に成功した。 (4)π電子の集積形態の一つとして導電性のカーボンナノ粒子に着目し、多孔質シリカへの固定化を実施した。得られた複合粒子を用いて分離カラムを作製し、多環芳香族に対して極めて高い選択吸着能が得られることを確認した。 (5) π電子の集積形態をボトムアップ手法で作製することを目的として、ジヒドロキシシナフタレンとトリアジナン誘導体による付加縮合によるその場重合法に着目した。具体的には、コロイダルシリカおよび多孔質シリカを用いた。得られた複合体を熱処理することにより、π共役系が伸展したカーボン類似構造体に変換できることを確認した。カーボン化率については、元素分析、比表面積、NMR等により評価した。 (6)多孔質シリカ粒子にπ共役系有機相を固定化した複合体をカラムに充填し、分子識別能について評価した結果、多環芳香族類に対する高い立体選択性が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、様々な官能基を導入した分子ゲルツールを合成し、2次キラリティや室温リン光、円偏光ルミネッセンス等の特殊な光学的シグナルを発現する分子ゲルシステムの作製に成功した。また、これらの分子ゲルを用いたセンシングを、円偏光ルミネッセンスを用いて検出することに成功した。 分子ゲルシステムと平行して、ボトムアップ型のπ共役ポリマーを作製する手法に注目し、反応機構の解明、利用できるモノマー群の拡大、分離システムへの展開を強化するためのその場重合システムの開発、さらには多孔質シリカとの複合系では、多環芳香族類に対する高い選択吸着能が発現することを確認した。 以上のように、当初目標をクリアしており、論文および学会等により多数の成果報告を行っているため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
円偏光ルミネッセンスは、本研究で開発してきたキラルな自己組織化体に求める重要な光学機能の一つであり、本研究において世界最高値に相当する円偏光発光度を実現することに成功しているので、次年度は、この現象を活用した高感度センシングの実現に挑戦したい。 一方、ボトムアップ型のπ共役ポリマー作製法は、その展開力の高さおよび優れた選択吸着能に結びつけることができることを確認している。そのため、次年度は、こり展開力のさらなる強化を求めた基礎知見の集積を目指す。
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