研究課題/領域番号 |
15H02195
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤田 淳一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10361320)
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研究分担者 |
小川 真一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 研究員 (00590085)
村上 勝久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 研究員 (20403123)
竹口 雅樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 技術開発・共用部門, 電子顕微鏡ステーション・ステーション長 (30354327)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低加速電子線 / 偏向 / 局在電荷 / 局在場 / ラザフォード散乱 / CNT / 触媒反応機構 |
研究実績の概要 |
本研究では、走査電子顕微鏡を用いた低加速電子線による高感度局在電場可視化技術の創出を目指して研究を行っている。これまでの研究では、先鋭化したタングステンプローブに電圧を印加し、プローブ先端近傍に生じる局在電場によって電子線をRutherford散乱させ、電子線の偏向角を検出することで局在場の可視化を行った。また、新たに導入した固体Siダイオード透過電子線検出器と、新規開発の電子光学系の導入により散乱長を150 mmと大幅に増大させ、、局在場に対する電子線偏向量を従来型検出系よりも約1桁以上の検出感度向上を達成することができた。その結果、10keVの電子線を用いた検出光学系において、従来よりも約2桁小さい10V/μmオーダーの局在電場に対しても感度良く検出することが可能となった。 H28年度では、半導体検出器自体を超薄型のpn接合を持つダイオード検出素子に変更改良し、100eVの一次電子線をも検出し得る高感度化を達成した。空間分解能と検出感度のトレードオフを考慮して、実際の検出では1keVの一次電子線を用いた局在電場検出を実施し、その検出感度が1V/μm以下にまで向上させる事に成功した。この新たな検出系を用いて、枝分かれした複数のCNT先端領域(CNTフォレスト)の複数箇所に同時出現する局在場をマッピングすることが可能となった。該当局在場領域には約100個の電子が局在し、約100nm離れた領域で1V/μmの局在場が形成されている事になる。 さらに、液体金属触媒であるGaを用いると、グラフェン核周囲でのエッジ成長が室温でも継続成長することを13C炭素ラベリング法を用いて実証することができた。裏返すと、メタンの分解反応が液体Ga触媒上で室温でも進行し、グラフェンエッジ成長が進行している事になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、高加速高分解能透過走査電子顕微鏡、並びに低加速走査透過電子顕微鏡の2種類の電子顕微鏡装置を用い、触媒試料の活性部位における電荷局在状態をリアルタイムに可視化し、触媒反応機構の解明を行うとともに、その知見をもとに、より高機能な触媒材料や触媒構造の開発を目的としている。局在微粒子上に単一電荷が存在したとき、その単一電荷から100nm離れた位置での電場強度は0.002V/μmとなる。触媒反応中の局在電荷が約100個集まると、0.2V/μmの電場が形成され、これは、現時点での局在場検出系で検出可能なレベルである。現在、電子線の加速電圧のさらなる低減化、さらに当初の計画通りに一次電子線に対する高周波摂動とロックインアンプ機構の導入により、さらなる1桁の感度向上は容易に実現可能であると想定された。つまり、次年度最終年度での研究として、局在電荷として10個レベルの触媒反応部位の検出を達成できる見込みとなった。 さらに、検出系の開発と同時にGa液体金属触媒を用いた超低温グラフェン合成も順調に進展し、50℃というほぼ室温レベルでのグラフェンエッジ成長を実現することができた。つまり、グラフェンに担持されたGa微粒子表面近傍では室温レベルの低温でも触媒反応が進行し、原料のメタンが分解して炭素と水素が生成され、これらの反応過程を電荷局在の観点から調べることで、新たな視点から触媒反応機構解明が進展すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となる次年度研究では、電子検出系のハードウェア、ソフトウェアの両面から検出感度の向上を追及し、極めて微弱な局在場の検出技術を完成させる。同時に、実際の触媒材料としてグラフェン表面でのGa微粒子触媒、さらには今年度からの連携研究者の協力により窒素ドープの3次元グラフェンを用いて、触媒反応機構の解明を進めていく。このために、独自の作動排気機構を備えたS4300型のサーマルショットキーエミッタ走査電子顕微鏡に原料ガスインジェクション装置を付加し、さらに本研究で開発した高感度局在場検出機構を組み合わせて、触媒反応中の電荷局在可視化を実現していく。 また、S4300のショットキー電子源はその電子線放出が非常に安定している。これまでS4800型冷陰極電子源からのFE電子線を用いたために、電子線強度(輝度)の時間的安定性に問題があり、偏向検出系出力に対するロックイン増幅ができなかった。しかしサーマルショットキーからの安定した電子線強度を用いる事で、ロックイン増幅機構を導入して、さらなる局在場検出感度向上を進めていく。 これらの局在場検出系の感度向上に平行して、実際のグラフェンやCNTなどの炭素系触媒表面での触媒反応に伴う局在電荷の出現についても、局在場の可視化、時間的変位、さらには温度と雰囲気ガス圧との関連を調べながら触媒反応の本質を解明していく。
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