研究課題/領域番号 |
15H02196
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, グループディレクター (40263735)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 有機導体 / 超分子 / 有機エレクトロニクス / 有機薄膜デバイス |
研究実績の概要 |
申請者は有機合成化学を基盤に有機半導体材料の開発と有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池などへの応用を行ってきた中で、従来の枠に囚われない未踏有機半導体骨格の探索、及びそれらの構造、電子状態を活かしつつ材料へと展開する事、薄膜中での材料の高次構造を制御する事の重要性を認識してきた。これを受け、本研究では未踏有機半導体骨格の開発に焦点を当て、それらの設計・合成・応用を行うことを第一の目的とする。次に、薄膜中の分子配列、配向を分子設計の段階で制御することを目指す。本研究では、分子設計、精密有機合成、単結晶構造解析、薄膜構造解析、デバイス作製評価の異なる手法を用い研究を進めていき、最終的には、未踏骨格開発と高次構造の制御と共に、高性能トランジスタや有機薄膜太陽電池の実現に資する有機半導体の開発を行うことを目指している。 昨年開発に成功した未踏n型有機半導体骨格であるナフトチオフェンイミド(NTI)の応用展開について検討し、分子の形を変化させることで薄膜(固体)状態における結晶性や分子配向を制御しトランジスタや太陽電池応用に適した材料の開発を行った(論文発表済)。一方、p型有機半導体骨格であるチエノアセン系の分子配列制御を試みる為、ベンゾジチオフェンをモデル化合物として置換基の導入を位置選択的に行った。その結果、チオアルキル基をチオフェンβ位に導入することで、通常のアセンやチエノアセン半導体では実現が困難なルブレンに類似した結晶構造となることを見出した。さらに、基板上での分子配向も結晶構造に影響を受けることが示唆され、単結晶トランジスタにおいてルブレン型結晶構造を持ち、side-on型の配向の誘導体が高い移動度を示すことが明らかとなった。これらに加え、DNTTへの汎用的な置換基導入のための合成法開拓など、高次構造制御のための方法論、及びそれらを実現するための合成手法の開発などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、n型、及びp型の半導体骨格を用い高次構造の制御を達成するために、1) n型半導体骨格であるナフトジチオフェンジイミド(NDTI)、及びナフトチオフェンジイミド(NTI)の大量合成法の開発と様々な分子修飾の実現、2) p型骨格であるベンゾジチオフェン(BDT)、及び、ナフトジチオフェンへ(NDT)への選択的硫黄置換基の導入法の開発と結晶構造制御法の開発、3) ジナフトチエノチオフェン(DNTT)への選択的かつ多様な置換基導入のための、鍵中間体の開発、などの研究を実施した。 これらの合成的な進展により、複数個のNTI部位を分子内に導入した新規n型半導体の開発に成功し、その分子形状に応じて適した用途があることを見出した。即ち、シンプルな二量体構造では結晶性の薄膜を与え、高移動度かつ大気中安定なn型トランジスタに適した材料となる一方で、3個、または4個のNTI部を平面型、またはスピロ型に導入した誘導体では有機薄膜太陽電池におけるn型有機半導体として適したものとなることを見出した。これらに加え、p型半導体における結晶構造、及び配向制御を置換基の選択的導入により実現することに本格的に着手し、チオメチル基、及び類似のアルキルチオ置換基の導入が効果的であることを見出した。BDT、NDTなどの典型的なチエノアセンp型半導体骨格において、チオフェン環α位にチオメチル基を導入することで、ヘリンボーン型からルブレン様の “pitched pi-stack”構造になり、また、基板上でside-on型に配列することを確認した。現状で単結晶トランジスタにおける移動度への影響は限定的(一桁程度向上)であるものの、今後の分子配向制御の手法として有望と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
世界的に低分子n型半導体を用いた有機薄膜太陽電池の高効率化が報告され、注目を集めている中で、本研究においてもNTIを用いたn型半導体が比較的高い効率の太陽電池を与えることを見出している(最新データで6%程度)。引き続き材料開発とデバイス応用を繰り返しつつ、望ましい分子構造とデバイス作製条件を見出し、さらには、分子レベルの修飾により結晶性・配向制御の手法を開拓することで、世界に比肩する特性を狙っていきたい。 一方、典型的なp型半導体骨格であるBDTにおいて選択的チオアルキル化により、分子配列(結晶構造)と基板上での分子配向の制御が可能であることを見出した。現状でBDTはπ骨格が小さいこともあり単結晶トランジスタにおける移動度は0.1 cm2/Vsオーダーであるが、NDTなどの有望な半導体骨格にも本手法は応用できるので(合成は確認済み)今後、高次構造制御による高移動度化に関する本格的な検討を実施する。 さらに、DNTTへの選択的置換基導入のための鍵中間体の開発やNDTI, NTIの汎用中間体の簡便かつ大量合成法も開発できており、今後、これらの合成的進展を活かし、高次構造制御と高性能デバイス実現のための材料設計と合成、デバイス応用と評価を実施していく予定である。
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