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2018 年度 実績報告書

雲マイクロ物理シミュレータによる雲乱流混合現象と雲粒子成長全過程の解明

研究課題

研究課題/領域番号 15H02218
研究機関名古屋工業大学

研究代表者

後藤 俊幸  名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70162154)

研究分担者 吉野 正人  信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (00324228)
渡邊 威  名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30345946)
三浦 英昭  核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (40280599)
齋藤 泉  名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70798602)
研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2020-03-31
キーワード雲乱流 / 雲粒子 / 雨粒子 / 乱流混合 / 雲粒径分布関数 / 温度揺らぎ / スペクトル / 第1原理計算
研究実績の概要

雲粒子成長と乱流混合の動力学を微視的視点から第1原理的計算によってシミュレートする雲マイクロ物理シミュレータ(CMS)にエアロゾルからの雲粒子生成プロセスの導入と改良および検証を進めるとともに,雲粒子生成から凝結成長過程における乱流の影響をより詳細に解析した.
雲粒径分布関数に対するフォッカープランク方程式を導き解析解を得た.雲粒径分布の分散は,過飽和度揺らぎとともに増大し,過飽和度揺らぎは乱流強度と共に増大する一方,平均雲粒子数密度の増大とともに減少することなどが分かった.また,CMSを用いてさらに大規模な計算を行いミシガン大の実験とほぼ同程度の乱流レイノルズ数(CMS:R_l=207, 実験:R_l=220)において,理論解析および実験結果一致することを確認しCMSの信頼性を再確認した.
ドイツアルプス山頂で計測された雲中の雲水量揺らぎのパワースペクトルがオブコフ・コアシン スペクトルのf^[-5/3}からずれることが報告されている.CMSを用いてこのスペクトルを計算すると同様な結果が得られた.現在,このスペクトルの解析を進めている.
雲全体の成長計算と微視的CMSの接続を念頭に置き,超水滴法(SDM)による雲乱流コードを開発しその基本的特性の検証を行なった.SDMにおける最小格子での変形速度テンソルをCMSにおける最大スケールでの乱流駆動方法とする試験的な計算を行い,その実現可能性を検討した.
鉛直方向に温度勾配のある場合の温度揺らぎのスペクトルをルジャンドル展開により解析した.揺らぎスペクトルのピークを高波数側に置くことで非等方性アンサンブルの統計的収束をはかるとともにレべデフ積分法を用いて高精度化を行った結果,確かな精度でルジャンドル展開係数の波数依存性を得ることに成功した.2次の展開係数は波数と共に等方成分(0次)よりは,早く減衰することが見出された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の第1目標である海洋性層積雲中におけるエアロゾルからの雲粒子生成,雲粒子成長そして乱流混合を微視的視点から第1原理的計算によってシミュレートする雲マイクロ物理シミュレータ(CMS)の開発はすでに達成された.理論・実験との比較による検証を終え,一定の信頼性が確保されたと考えている.これに加えて,雲粒径分布関数の凝縮成長段階での理論構築とミシガン大における室内実験との比較から,雲粒子成長の物理的メカニズム解明が徐々に進んできている.例えば,フォッカープランク方程式による凝結成長段階での過飽和度揺らぎ,乱流強度,平均雲粒子数密度の影響を理論的に説明したこと,そしてCMS・実験との一致は,この分野にとって画期的な進歩である.さらには,Max Planck研究所チームによる雲水量揺らぎスペクトルと本CMSによる同スペクトルとの一致は予想外の成果である.これにより,オブコフ・コアシン スペクトルのf^[-5/3}からのずれの物理的解明が進展すると期待できる.
これらの成果は,論文(JMSJ 受理)をはじめ,国内外での招待講演・一般講演で積極的に発信されている.例えば,H30年に後藤はTexas A&M(8月),Michigan Tech.(9月),SUSTech(12月),Ecole Centrale de Lyon(3月)で招待講演を行い,斎藤は10月にMichigan Tech.に招聘され6回の連続講義を行った.また,Michgan Techとは共同研究の推進についても検討を行っているなど大きな広がりを見せている.さらには,CMS計算を雲全体計算へ接続するために超水滴法コードを開発したこと,スカラー揺らぎの非等方スペクトルの解析など乱流混合現象における重要な問題の解明においても,確かで着実な進展が得られている. これらのことより,研究は着実に進展していると判断した.

今後の研究の推進方策

海洋性積雲中を潜熱開放により上昇するパーセル内の雲粒子成長と乱流混合の大規模計算をより高いレイノルズ数で実行する.今年度は,エアロゾルの効果を取り入れた雲粒子生成過程,凝結成長,衝突・併合過程に衝突ダイアグラムを取り入れて,高解像度,高乱流レイノルズ数での大規模計算を行う.目標計算規模は空間格子点数1024^3、雲粒子数約10億個、乱流レイノルズ数R_l=350程度,積分時間約10分程度(400万ステップ)のかつてない規模の長時間積分を実行するため,慎重なパラメータ設定や数値計算環境を整える必要がある.雲粒径分布関数の乱流強度やラグランジュ速度相関時間への依存性,エアロゾル数密度や粒径分布の影響,平均過飽和度の影響を解析する.また,雲粒子成長と乱流との相互作用の視覚的理解を進めるために,雲粒子と過飽和度の可視化を行う.
雲粒子による乱流スペクトルの変形の物理的機構を明らかにするため,乱流レイノルズ数を変化させた大規模シミュレーションを実行する.空間解像度に焦点をあてるため,積分時間は雲粒子成長計算のものよりは短くとる.乱流自身によるObukhov-Coorsinスペクトルの維持と雲粒子による変形効果が釣りあう条件を探る.
実際の雲中により近い条件で雲乱流を励起する手法を開発する.SDMによる雲乱流の全体的成長計算とCMSによる第1原理計算との接合方法のための理論基盤と結合モデル構築を行う.
乱流混合現象の大規模DNSを行い,速度場とスカラー場の非等方性,間欠性,シュミット数依存性をスペクトルや高次構造関数のスケーリング,確率密度関数を用いて解明する.

  • 研究成果

    (30件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 9件、 招待講演 9件)

  • [国際共同研究] Michigan Technological University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Michigan Technological University
  • [雑誌論文] Extended Magnetohydrodynamic Simulations of Decaying, Homogeneous, Approximately-Isotropic and Incompressible Turbulence2019

    • 著者名/発表者名
      H. Miura
    • 雑誌名

      Fluids

      巻: 4 ページ: 46.1-28

    • DOI

      https://doi.org/10.3390/fluids4010046

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Size distribution spectrum of noninertial particles in turbulence2018

    • 著者名/発表者名
      Saito Izumi、Gotoh Toshiyuki、Watanabe Takeshi
    • 雑誌名

      Physical Review E

      巻: 97 ページ: 053108 1-10

    • DOI

      10.1103/PhysRevE.97.053108

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Early Archean planktonic mode of life: Implications from fluid dynamics of lenticular microfossils2018

    • 著者名/発表者名
      T.Kozawa, K.Sugitani, D.Z.Oehler, C. H. House, I. Saito, T.Watanabe, T.Gotoh
    • 雑誌名

      Geobiology

      巻: 17 ページ: 113-126

    • DOI

      https://doi.org/10.1111/gbi.12319

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] 乱流と固体粒子群の相互作用に関する大規模シミュレーション2018

    • 著者名/発表者名
      渡邉 友貴, 渡邊 威, 齋藤 泉, 後藤 俊幸
    • 雑誌名

      ながれ:日本流体力学会誌

      巻: 37 ページ: 123-128

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ランダム速度場下での弾性乱流の発生とその統計性2018

    • 著者名/発表者名
      渡邊 威, 後藤 俊幸
    • 雑誌名

      数理解析研究所講究録

      巻: 2997 ページ: 40-49

  • [雑誌論文] 改良二相系格子ボルツマンシミュレーションによる雲内における2つの微小水滴が接近する際の挙動解析2018

    • 著者名/発表者名
      澤田純平,吉野正人,鈴木康祐
    • 雑誌名

      日本機械学会論文集

      巻: 84 ページ: 18-00023.1-14

    • DOI

      10.1299/transjsme.18-00023

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Numerical simulation of head-on collision dynamics of binary droplets with various diameter ratios by the two-phase lattice kinetic scheme2018

    • 著者名/発表者名
      Masato Yoshino, Jumpei Sawada, Kosuke Suzuki
    • 雑誌名

      Computers and Fluids

      巻: 168 ページ: 304-317

    • DOI

      10.1016/j.compfluid.2018.03.060

    • 査読あり
  • [学会発表] 雲乱流の計算科学2019

    • 著者名/発表者名
      後藤俊幸、斎藤泉、渡邊威、安田達哉
    • 学会等名
      日本物理学会 年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 乱流により移流されるパッシヴベクトルの間欠性についての数値研究2019

    • 著者名/発表者名
      楊 静遠、後藤俊幸、渡邊威、三浦英昭
    • 学会等名
      日本物理学会年次大会
  • [学会発表] Cloud Turbulence and Droplets in Cloud Microphysics Simulator2019

    • 著者名/発表者名
      T.Gotoh, I. Saito, T. Yasuda, T. Watanabe
    • 学会等名
      Lecture at Ecole Centrale de Lyon
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Passive scalar spectrum and intermittency effects at very high Schmidt number2019

    • 著者名/発表者名
      T. Gotoh
    • 学会等名
      Workshop on scalar mixing at Ecole NormaleSupreme de Lyon
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 雲乱流実験において形成される粒径分布に関する統計理論について2018

    • 著者名/発表者名
      Izumi Saito, Toshiyuki Gotoh, Takeshi Watanabe
    • 学会等名
      日本気象学会2018年度春季大会
  • [学会発表] Turbulence-cloud droplet interaction in cloud micro-physics simulator2018

    • 著者名/発表者名
      Izumi Saito, Toshiyuki Gotoh, Takeshi Watanabe
    • 学会等名
      AMS 15th Conference on Cloud Physics
    • 国際学会
  • [学会発表] パッシブベクトルの統計的な性質2018

    • 著者名/発表者名
      楊 静遠、後藤 俊幸、渡邊 威
    • 学会等名
      京大 数理解析研究所研究集会 乱流と遷移:構造、多重スケール、モデル
  • [学会発表] Cloud Turbulence2018

    • 著者名/発表者名
      T. Gotoh, I. .Saito, T. Watanabe, and T. Yasuda
    • 学会等名
      Perspectives on Turbulence Workshop Texas A&M
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Cloud Turbulence2018

    • 著者名/発表者名
      T. Gotoh, I.Saito, T. Watanabe, and T. Yasuda
    • 学会等名
      Michigan Tech. Univ. Lecture
    • 招待講演
  • [学会発表] 乱流による移流される受動ベクトルのシミュレーション2018

    • 著者名/発表者名
      楊 静遠、後藤俊幸、三浦英昭
    • 学会等名
      日本物理学会秋季大会
  • [学会発表] パッシヴベクター乱流の大規模シミュレーションと統計解析2018

    • 著者名/発表者名
      楊 静遠、後藤俊幸、渡邊威、三浦英昭
    • 学会等名
      プラズマシミュレータシンポジウム
  • [学会発表] Growth of cloud droplets in turbulence in cloud microphysics simulator2018

    • 著者名/発表者名
      Izumi Saito, Toshiyuki Gotoh, Takeshi Watanabe, and and Tatsuya Yasuda
    • 学会等名
      Physics Colloquium at Michigan Technological University
    • 招待講演
  • [学会発表] 雲乱流と雲微物理2018

    • 著者名/発表者名
      後藤俊幸, 齋藤泉,渡邊威,安田達哉
    • 学会等名
      気象学会2018年度秋季大会
  • [学会発表] 乱流-雲粒相互作用に関する統計理論のDNS による検証2018

    • 著者名/発表者名
      齋藤泉、後藤俊幸, 渡邊威,安田達哉
    • 学会等名
      気象学会2018年度秋季大会
  • [学会発表] Interaction between cloud droplets and turbulence2018

    • 著者名/発表者名
      T. Gotoh, I. Saito, T. Watanabe, and T. Yasuda
    • 学会等名
      APS DFD Meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] Fluctuations of incompressible passive vectors convected by homogeneous turbulence2018

    • 著者名/発表者名
      J.Yang, T. Gotoh, T. Watanabe, and H. Miura
    • 学会等名
      The 27th International Toki Conference on Plasma and Fusion Research
    • 国際学会
  • [学会発表] Broadening of droplet size distribution in turbulence in cloud microphysics simulator2018

    • 著者名/発表者名
      Izumi Saito, Toshiyuki Gotoh, Takeshi Watanabe, and Tatsuya Yasuda
    • 学会等名
      Workshop on particle-based modeling of cloud microphysics 2018
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Droplets and Turbulence in Cloud2018

    • 著者名/発表者名
      T. Gotoh, I.Saito, T. Watanabe, and T. Yasuda
    • 学会等名
      Lecture at Southern University of Science and Technology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 雲乱流実験チャンバー「パイチャンバー」と関連研究について2018

    • 著者名/発表者名
      齋藤泉, 後藤俊幸, 渡邊威, 安田達哉
    • 学会等名
      エアロゾル・雲・降水の相互作用に関する研究会
    • 招待講演
  • [学会発表] 小さな固体粒子群による乱流変調の大規模シミュレーション2018

    • 著者名/発表者名
      小澤 朋樹, 渡邊 威, 齋藤 泉, 後藤 俊幸
    • 学会等名
      日本流体力学会年会
  • [学会発表] 等方乱流中の固体粒子群の振る舞いと乱流変調2018

    • 著者名/発表者名
      渡邊 威, 小澤 朋樹, 齋藤 泉, 後藤 俊幸
    • 学会等名
      日本物理学会秋季大会
  • [学会発表] Lattice Boltzmann simulation of behavior of binary water droplets approaching each other in cloud2018

    • 著者名/発表者名
      Masato Yoshino, Jumpei Sawada, Kosuke Suzuki
    • 学会等名
      27th International Conference on Discrete Simulation of Fluid Dynamics
    • 国際学会

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公開日: 2019-12-27  

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