研究課題/領域番号 |
15H02231
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
高木 浩一 岩手大学, 理工学部, 教授 (00216615)
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研究分担者 |
大嶋 孝之 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30251119)
王 斗艶 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 准教授 (30508651)
林 信哉 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40295019)
秋山 雅裕 岩手大学, 理工学部, 准教授 (50611430)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パルスパワー / プラズマ / 静電気 / 発芽促進 / 生長促進 / 鮮度保持 / 酵素活性制御 / ストレス |
研究実績の概要 |
本研究では、「パルスパワー放電による青果物の収量改善とその鮮度保持科学の深化」を「パルスパワー電源開発」、「植物発芽・生長促進」、「生鮮食品鮮度保持」の3つの観点より科学的・工学的に探究することで、農工連携学術領域の確立を目的とする。 今年度の成果として、パルスパワー電源開発では、前年度開発した電源を用いて実験を行い、その結果を受けて本研究に適した出力波形になるように回路パラメータの見直しを行った。加えて、本分野の研究の裾野を広げるために必要となる電源の小型化や半導体部品などの汎用化を行った。この成果により、本研究グループ以外でも容易に本研究分野の内容を実施することが可能となった(アグリビジネスフェアなどで展示)。開発電源も活用し、植物の発芽や生長促進効果の機序についても研究を進めた。発芽促進では、プラズマ照射の効果は第一世代だけではなく、第二世代にも効果が続くことが明らかとなった。第二世代種子で発現する遺伝子についても解析を行い、酸化ストレス関連の遺伝子が有意に増加することなどが、明らかにされた。実用面でも、トマトの幼苗に重大な影響を与える青枯れ病菌を用いた幼苗試験などを実施した。循環水にプラズマ照射を行い、それを用いてトマト幼苗の栽培を行うことで、青枯れ病菌の影響が抑えられること、また水中のラジカルが青枯れ病菌不活性化の主要因であることなども明らかにした。鮮度保持については、空気清浄用のパルス放電デバイスを開発し、その空中浮遊菌に対する捕集効果と殺菌能力を評価した。パルス電源のdutyによ って、捕集や殺菌能力が変化することが明らかとなった。また、食品分野についても、クエン酸の発酵過程において、適度なパルス電界を加えることで活性が上がること、清酒の工程に含まれる火入れによる酵素失活に並行してパルス電界の印加による、αアミラーゼの構造と活性の変化を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、「パルスパワー放電による青果物の収量改善とその鮮度保持科学の深化」を「パルスパワー電源開発」、「植物発芽・生長促進」、「生鮮食品鮮度保持」の3つの観点より科学的・工学的に探究し、農工連携学術領域の確立を目的とする。昨年度は、研究目的を期間内に達成するため、研究分担者および代表者が、それぞれの実施内容が進められるように基盤整備を行い、加えて研究のプラ ットフォーム創出のためのパルスパワー電源の開発などを行った。今年度は、昨年度それぞれの研究担当者が進めた研究を、さらに学理深化として発芽・生長促進、鮮度維持などの高電圧・プラズマの効果のメカニズムや機序を明らかにすることを進めるとともに、それぞれの実施内容および成果について情報共有し、連携によってシナジー効果的な成果へつなげることを計画していた。成果として、それぞれが進めている学理深化については、研究実績で述べたように、発芽に対する遺伝子解析で、酸化ストレス系の遺伝子に影響があることなど、多くの機序を明らかにするに至っている。また研究のプラットフォームについても、電源の汎用化や回路パラメータの見直し、加えてプラズマ発生方法(電極構造など)の工夫により、おおよそ実現できつつある。また、10月には研究担当者が集まり、お互いの成果を発表し、それについて議論を深め、情報を共有するとともに、研究者間の連携の素地を構築できた。本研究の成果は、複数の学会のシンポジウムや解説記事などとして公表することとなり、本分野の研究を、主体的に推進するに至っている。また、IOPの学術誌より、本研究グループへレビュー論文の執筆を依頼されるなど、世界的にも研究の成果が認知されつつある。以上の状況から、おおむね順調に進展しているとの判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
初年度には、研究代表および研究分担者が、それぞれ分担している研究テーマの実施に必要な研究環境の整備や、これまでの研究資産を活用して、本研究テーマの進捗に資する実験や、研究プラットフォーム構築に必要となるパルス電源や、その制御手法を確立させた。その後の2年間の研究期間で、研究代表グループと研究分担者と定期的に進捗の報告会などを行って、お互いの成果や知見を共有し、本分野を日本・世界で牽引するように展開していくための学理深化とプラットフォーム形成、成果の発信などを推し進めた。すでに論文や国際会議での発表、また書籍「工業技術者のための農学概論」(理工図書;2018.4)の発刊なども行い、おおよそ計画通りに進められており、また成果の発信については、当初の計画を上回るペースで行えている。最終年となる次年度は、成果公開の場として国際会議(3rd International symposium on Application of High-voltage, Plasma & Micro/Nano Bubble to Agriculture and Aquaculture (3rd ISHPMNB) and Embedded International Symposium on Innovative Agriculture and Fishery (ISIAF 2018)を、岩手大学で5月に開催することを計画している。加えて、論文の特集号や 、研究会でのテーマ付きセッションなどの提案も行っていき、本研究に携わっている研究者を核にしつつ、本分野の研究者の裾野拡大をさらに推し進めていく。また、バイオ研究者、植物生理学を専門とする研究者との情報交換や連携も積極的に展開し、本分野の学理深化を目指すことを計画している。
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