研究課題/領域番号 |
15H02232
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀 洋一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50165578)
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研究分担者 |
藤本 博志 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (20313033)
居村 岳広 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (30596193)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電気自動車 / ワイヤレス給電 / 走行中給電 / モーション制御 / エネルギー効率化 |
研究実績の概要 |
本研究は,走行中の電気自動車に非接触で直接エネルギー供給を行うための,現実的なシステム(例えば,地上側の送電設備はきわめて簡単でなければならない等)に関する確固たる基盤技術の開発を目的とする。わざわざ基礎研究という理由は,走行中ワイヤレス給電システムの実現は容易ではなく,少なくとも東京オリンピックまでに将来を見通せる技術が見えていればもう十分である,という認識のためである。 走行中ワイヤレス給電にはどのような方式が適しているのかさえ明確になっていないが,おそらく磁界共振結合方式の改良を基本とし,インピーダンスインバータなどの理論を駆使して,地上設備を簡単にする真に実用的な方策を開発して行くことになる。3年をかけてその基礎理論から将来を見通せる応用技術までをしっかり築き,そのためのデモンストレーション設備を柏キャンパス内の実験走行路に製作して,その将来性を実証することを目的としている。 具体的な項目として,1.エネルギーマネジメント技術に関する研究,2.コンデンサレス・フェライトレスコイルに関する研究,3.過渡現象を考慮したシステム設計,4.磁界共振結合通信とセンサ利用,5.漏洩電磁波低減技術の開発,6.地上側施設の簡易化 の6つ(申請書段階の6項目からやや変更している)をあげており,それぞれにおいて当初目的以上の成果を得られている。詳細をここで論ずるスペースはないが,後述する多くの発表論文(本報告書では28年度の1年分)によってその成果は裏付けられている。 とくに,繰越費用を用いて,柏キャンパスの電気自動車実験場に完成した走行中ワイヤレス給電設備は学内外の大きな反響を呼んでおり,最終年度はこれを活用した実車実験を多数予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電気自動車への走行中給電においては,道路の10%程度に設置するとしても地上側設備は数kmにわたり,かつ,道路のメンテナンスがあったり,将来的にはかなり小さな道への敷設も視野に入れたりすることを考慮すれば,きわめて簡単なものにしなければならないことは明白である。一方,車上側の設備はクルマの付加価値になるから,多種多様な電源形態に対応できる高機能なものであってもかまわない。 このような考え方のもとで,先に上げた6つの具体的な項目について成果を簡単にまとめておく。 1.エネルギーマネジメント技術に関する研究:走行中充電のシステムとして負荷変動含めた動作範囲全域をカバーするエネルギーマネジメント技術を開発した。2.コンデンサレス・フェライトレスコイルに関する研究:高価で重いフェライトやコンデンサを使うこと無しに85kHzで動作するコイルの基礎的な実証実験に成功した。3.過渡現象を考慮したシステム設計:走行中充電においては過渡現象が無視できない。特に,大電力の時に見えてくる急激な電流振幅が生じない給電法の確立に成功した。4.磁界共振結合通信とセンサ利用:インピーダンスの変化を利用し,送電コイルの上にクルマの有無を検知するシステムの大電力版を検証し,その有効性を確認した。5.漏洩電磁波低減技術の開発:漏洩磁界低減の必要性を検証し,フェライトを使用し,かつ,送電コイルの設計を工夫することで漏洩磁界を低減することに成功した。6.地上側施設の簡易化:LCL回路を用い,車が来ると自動的に電力が送られ,車が過ぎ去ると自動的に送電が止まるシステムの構築に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には前項にあげている6項目について,継続して研究を行っていく予定である。「走行中ワイヤレス給電」は「停車中ワイヤレス給電」とはまったく別の技術である。柏キャンパスに完成した「走行中ワイヤレス給電の走行実験路」を利用して,いろいろな給電方式による走行実験を予定している。 本研究は平成27年度末に繰越申請をした。当初は平成27年12月までに小電力システムの構築を経て,28年3月までに走行中給電の模擬実験と解析を行い成果をまとめる予定であったが,回路損失やセンサの分解能の影響が想定以上に大きいことがわかり,大電力化に向けて解決すべき課題となったためである。 本年度が最終年度であるため,学会の公開委員会や講習会などを通じ,社会への情報発信にもより重きを置く。高性能電池にたよる電気自動車の未来はおそらく間違いであり,「走行中ワイヤレス給電」によって確かな未来を描くことも重要である。 妹尾堅一郎氏によれば,世界は100 年ごとのパラダイムシフトを経験してきた。18世紀のコンセプトは「物質」である。モノを作るために産業革命が起こり,モノを運ぶ鉄道,船舶などのネットワークが構築された。19 世紀のコンセプトは「エネルギー」で,石油を中心とするエネルギー革命が起こり,エネルギーを運ぶネットワークが世界を席捲した。21 世紀は,20 世紀に生まれたコンセプト「情報」を具現化する時代であって,新しいビジネスモデルが必要だという。ユーザーは単なるインターフェースである安価な端末を持つだけになり,肝腎の知能はネットで接続されたCloud にある。iTunesで買うのは音楽そのものであってCD は必然ではないのと同じように,クルマで買うのは快適な移動と運転の楽しさである。クルマは個人所有するものでなくなり,ナビやIoTによってインフラに接続され,エネルギーを自前で持ち運ぶ必然性はない。
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