前年度までに達成したAlN分極制御層を挿入したGaN光カソードの動作実証に続き,光照射のみで外部バイアスを印加せずに水の分解・水素生成を可能にするための特性改善を試みた.まず,GaN表面(電解液との界面)から溶液中のプロトンへの電子移動が電流を律速している傾向がみられたため,GaN表面に電気化学堆積法によりPt粒子を導入した.その際,光触媒として動作させる際と同様の光照射条件下で電気化学体積を行うことで,GaN表面のうちでも電子が蓄積しやすいサイトに選択的にPtを導入し,GaNに存在する結晶欠陥の影響を低減することに成功した. また,分極制御層に関して,従来は歪み由来のピエゾ電界を最大化するべくGaNと格子定数差が大きい純AlNを成長すべく結晶成長温度の低温化などの工夫を施してきたが,GaN上に成長した純AlNは格子緩和しやすく,理論で予測されるほどの電解を得ることは難しいことが判明した.そこで,格子定数差よりも格子緩和せずに結晶成長できる可能性を優先して分極制御層をGaが0.3程度含まれるAlGaNに変更して,光カソード構造の結晶成長を再度試みた.AlGaN分極制御層の採用により,結晶成長装置からのGaのクロスコンタミネーションを気にせずに高温成長することが可能になり,分極制御層の格子緩和を抑制するのみならず結晶欠陥の低減も同時に達成できた.これらの改良により外部バイアス無しの2電極系において水の光電気化学分解を行うことが可能となった. 一方,Ptを含む表面修飾の導入によりもたらされるバンド端位置と溶液中の酸化還元電位との相対関係の変化を解析するため,光誘起オープンサーキットポテンシャルの光強度依存性から電解液/GaN界面のバンドアラインメントを解析する手法を構築した.この解析によれば,粒子上Ptによる表面修飾はバンドアラインメントにはほとんど影響しないことが判明した.
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