研究課題/領域番号 |
15H02251
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
神代 暁 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 研究グループ付(人事部総括企画主幹) (60356962)
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研究分担者 |
平山 文紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (10357866)
山森 弘毅 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 研究グループ長 (00358293)
佐藤 昭 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 主任研究員 (30357149)
永沢 秀一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロニクス研究部門, 招聘研究員 (50500584)
福田 大治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 物理計測標準研究部門, 研究グループ長 (90312991)
佐藤 泰 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 分析計測標準研究部門, 主任研究員 (90357153)
大野 雅史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (90391896)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 周波数多重読出回路 / 超伝導マイクロ波共振器 / SQUID(超伝導量子干渉素子) / 超伝導検出器 / TES(超伝導転移端センサ) / 多画素化(アレイ化) / クロストーク |
研究実績の概要 |
本研究は、A. 超伝導チップ開発、B. 室温信号処理回路開発、C. 超伝導転移端センサ(TES)との協調動作の3課題から成る。課題Aに関して、周波数多重読出回路の性能を左右する2大要素素子であるマイクロ波共振器と超伝導量子干渉素子(SQUID)の最適化に注力した。具体的には、共振器を構成する電極材料と線路パラメータの最適化を図るべく、2種の電極材料(Nb, NbN)×2種の基板材料(Si, Al2O3)の4種の共振器を試作し、共振特性の急峻さを表す共振器の無負荷Q値QUと低周波域(30 kHz以下)の位相雑音dfのマイクロ波電力PM依存性を0.1 Kにて測定した。その結果、4材料とも、本課題の目的である超伝導転移端センサ(TES)アレイの読出に必要な低雑音性を実現可能なQU値(1e04<QU<1e06)やdf値を得るとともに、最適PM値近傍では、超伝導マイクロ波共振器において頻繁に報告される二準位系の損失は無視できることがわかった。課題Bに関して、昨年度の到達点から一歩進めて、まず、1系統信号処理系に対する画素間クロストーク量Cを、SQUIDの初期磁束に依存しないユニバーサルな量に改良した評価法を確立した。また、隣接画素の共振周波数差の増大と、隣接共振周波数を持つ画素どうしの間隔の増大により、Cを昨年度得た値の1/5、すなわちTESのエネルギー分解能を支配しない1e(-03)以下への抑制に成功した。さらに、マトリョーシカ動作を行うため、第2系統の室温処理回路を構築した。課題Cに関して、TESのエネルギー分解能劣化の原因となる、入出力特性における直線性誤差eがCに比例することを世界で初めて明らかにし、課題Bで見出したC低減法がe低下にも効果あることを示した。また、ガンマ線を照射した単画素TES出力を、実用上充分かつ従来型SQUIDに劣らない高速性を持って読出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題Aに関し、サファイア基板上に作製したNb, NbN電極の0.1 Kでの系統的評価を行うとする2016年度当初の目標を達成した。課題Bに関し、2015年度に開発した第1系統の室温信号処理系に続き、2016年度に第2系統を構築し、2系統読出の予備実験と1系統読出とのクロストーク量比較への着手を行う目標を達成した。課題Cに関し、TES-読出回路の協調動作実証、雑音・ダイナミックレンジの評価の目標を達成し、性能の制約要因の明確化と改善策のみを2017年度に繰り越すことになった。一方、2016年度計画にない予想外の進捗として、ガンマ線TESに比べ約1桁高速なX線TES読出への応用のため、SQUIDに印加する鋸歯状変調波の周波数を60 kHzから480 kHzに増大した読出回路チップの設計・試作・特性評価を行った点が挙げられる。以上を総合的に見て(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に構築した2系統の室温処理回路および確立した画素間クロストーク量の評価法を用い、2017年度は、マトリョーシカ方式の基本動作実証と読出回路としての性能評価を行う。具体的には、2系統の室温処理回路に跨る4以上の画素間のクロストーク量を測定し、これらの画素を従来型マイクロ波読出法である1系統の室温処理回路の基で読出す場合のクロストーク量と比較する。両者のクロストーク量が変わらなければ、マトリョーシカ方式のマイクロ波読出への導入上の懸念点が払拭され、1本の読出線への多重化画素数に関する従来型マイクロ波読出法への優位性を持つマトリョーシカ方式の実用性の実証という、本研究提案当初の目標が達成される。クロストーク量増大の結果が得られた場合には、系統間分離用フィルタの挿入や、変調・復調用局部発振電力の最適化により、どれだけの低減が図れるかを明らかにし、今後の指針とする。 読出回路の性能指数として重要な、入力換算雑音電流IN [A/sqrt(Hz)]に関し、2016年度に見出された下記2課題の原因究明と対策を図る。(1) 共振器へのSQUID積層時のQU値低下とそれに伴うIN増大 (2) TESのバイアス点に依存して発生する低周波雑音。(1)に関しては、高QU値の得られた共振器のみの作製工程と、QU値低下が見られたSQUID含む全作製工程との違いを吟味し、後者のみに含まれる工程の中から、QU値低下の主因を抽出するための対照実験を行うとともに、その対策を講ずる。(2)に関しては、PMやTES抵抗の温度係数に対するINの依存性を系統的に調べ、原因の究明と対策を行う。 標記改善を図った読出回路を基に、2016年度実現した単画素TES読出を一歩進め、2-4画素のTESアレイを試作し、その多重読出の実証を目指す。
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