研究課題/領域番号 |
15H02290
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
幾原 雄一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70192474)
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研究分担者 |
藤平 哲也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00463878)
石川 亮 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20734156)
栃木 栄太 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50709483)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結晶粒界 / 透過型電子顕微鏡 / 第一原理計算 / バイクリスタル / セラミックス / 粒界偏析 / 粒界拡散 / 収差補正走査透過電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)をはじめとする先端ナノ計測技術を駆使して材料界面に形成される構造ユニットの原子・電子構造を定量的に評価・解析するとともに、第一原理計算に基づく理論解析を併用することで、界面構造ユニットによる機能特性発現機構を明らかにし、新規かつ特異な機能特性を有する機能界面の設計と創出を目標とする。本年度は、界面原子構造計測、界面特性理論計算、界面構造ユニット制御プロセスの各項目に関して必要となる要素手法の開発を行った。界面計測に関して、走査透過型電子顕微鏡(STEM)法による界面の原子構造および局所組成の定量的な測定のための観察条件の詳細な検討を行った。各種のSTEM像結像条件およびエネルギー分散型X線分光(EDS)分析における電子チャンネリング効果を含むシミュレーションを併用した解析により、粒界・界面における原子レベル構造・組成情報を抽出するのに最適な観察条件を模索し、ジルコニアをはじめとする酸化物結晶粒界の組成分析へと適用した。理論計算に関して、複雑構造を有する酸化物結晶粒界における原子拡散の理論解析手法の確立を行った。古典分子動力学法および第一原理全エネルギー計算を併用した方法により、これまで原子レベルの詳細が不明であったアルミナ対称傾角粒界における支配的な原子拡散経路と原子移動エネルギー障壁の理論評価を行った。界面制御プロセスに関して、雰囲気を制御して結晶の接合が行える熱拡散接合炉の作製・立ち上げを行った。無添加および異価数状態をとるドーパントを添加したアルミナ双結晶を作製し、TEM/STEMを行った結果、粒界原子構造が実際に接合雰囲気に依存して変化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の骨子は、界面元素を実験的に計測し、理論計算と融合することによってその機能発現メカニズムを解明することにある。本年度は、三つの重要な研究ユニット((1)界面原子構造計測手法、(2)界面理論計算手法、(3)界面構造ユニット制御プロセス)を立ち上げ、全体目標にとって必要となる要素手法の開発を行った。 (1)の界面計測に関して、STEM像コントラストの検出器位置(電子散乱角度)依存性、およびエネルギー分散型X線(EDS)組成分析に与える電子チャンネリングの効果に関して、実験観察とシミュレーションを併用した解析を行い、界面構造および組成の原子レベル解析のために適した観察方法および条件を検討した。理論計算を併用した解析により、イットリウム添加ジルコニア結晶粒界におけるドーパント偏析および局所組成変化の定量解析を行った。(2)の理論計算に関して、アルミナ対称傾角粒界における原子構造と原子拡散について古典分子動力学法及び第一原理計算を併用した解析を行い、粒界における具体的な原子拡散パスと要素拡散パスにおける移動エネルギー障壁の定量的な見積りを行った。拡散特性を支配する可能性のある因子として移動原子の配位環境に関係する幾何学的因子に着目し、移動エネルギー障壁との相関を検討した。(3)の界面制御プロセスに関して、雰囲気下結晶接合炉を導入し、無添加およびドーパント添加アルミナ双結晶試料の作製を行った。モデル試料として、雰囲気に応じて異なる価数状態を取りうるTiをドーパントとして添加したアルミナ双結晶試料を作製した。異なる接合雰囲気で作製された双結晶試料を高分解能STEM観察により解析した結果、粒界の原子構造は接合雰囲気に依存して顕著な変化を示すことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に導入・立ち上げを行った雰囲気下結晶接合炉に関して、ガス導入経路の再検討などが必要であることがわかった。今後、改良された雰囲気接合炉を用いて、純粋および異なるドーパント種を添加した種々の酸化物結晶について、異なる雰囲気条件下での接合界面作製実験を系統的に行っていく。作製された界面・粒界試料に関して、高分解能TEMおよびSTEM観察を中心とするナノ・原子レベル計測を行い、界面作製プロセス条件と界面構造・組成の間の相関を明らかにし、界面構造ユニット制御のための指針を確立することを目指す。理論計算に関して、粒界性格の異なる酸化物粒界およびドーパントを添加した系へと対象を広げて粒界原子構造と原子拡散特性の計算を進める。粒界に偏析した微量ドーパント元素は、クリープ変形などのセラミックスの機械特性や粒界拡散特性に顕著な影響を与えることが知られている。各粒界に関してドーパント偏析を含めた粒界構造モデルの確立、支配的な原子拡散パスの特定と移動エネルギー障壁の理論評価を行い、配位環境の幾何学やその他の因子との相関について検討し、粒界不純物偏析および拡散特性の支配因子の検討を行う。以上の界面・粒界作製実験、界面計測、界面理論計算を相互に連携しながら進め、界面構造ユニットとそのドーパント修飾による界面特性制御へとつながる知見を得ることを目指す。
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