研究課題/領域番号 |
15H02291
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
八島 正知 東京工業大学, 理学院, 教授 (00239740)
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研究分担者 |
酒井 孝明 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20545131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン伝導体 / 結晶構造 / 新構造ファミリー / 中性子回折 / 放射光X線回折 / 電気伝導性 / 燃料電池 / センサー |
研究実績の概要 |
エネルギー環境分野の技術革新には優れた酸化物イオン伝導体を開発することが重要である.高い酸化物イオン伝導度は特定の構造ファミリー(結晶構造型)で発現するので,新しい構造ファミリーに属する構造を持つイオン伝導体の探索と発見が必要である.本課題ではイオン伝導体として過去に検討されてこなかった構造ファミリーの物質群について、結晶格子中をイオンが移動できる経路が存在するか否かを、結合原子価 (Bond Valence)に基づいた酸化物イオンのエネルギー(BVE)図により検討している.2017年度はSnなどを含む系を調べた.Snを本質的な元素として含む119種類の構造型を持つ147組成について酸化物イオンが移動するためのエネルギー障壁を計算し,エネルギーが低い経路が格子を横切って連結するか否か、すなわちボトルネックが広いかどうかを調べ,Mg3TeO6型 Ca0.8Y2.4Sn0.8O6が比較的低い酸化物イオン移動のためのエネルギー障壁を持つことがわかった.そこでCa0.8Y2.4Sn0.8O6を合成し,300 Kと1273Kにおける放射光X線粉末回折実験により結晶構造を精密化し,紫外可視スペクトルを測定,電気伝導度の温度および酸素分圧依存性を測定した.その結果,Ca0.8Y2.4Sn0.8O6が酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーであることがわかった.また, CaFe2O4型酸化物としては初となる純酸化物イオン伝導体であるSrYbInO4を発見した.結晶構造の詳細を研究することが高いイオン伝導度発現の原因究明にとって不可欠である.アパタイト型イオン伝導体の精度の高い単結晶中性子回折実験により,格子間酸素は存在しないことがわかった.他にもいくつかの酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーを発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Snなどを含む系について結合原子価法で新型イオン伝導体の候補物質を探索した.例えばSnを含む系では,119種類の構造型を持つ147組成について,エネルギー障壁を計算し,候補物質Mg3TeO6型 Ca0.8Y2.4Sn0.8O6を見つけた.そこでCa0.8Y2.4Sn0.8O6を合成し,結晶構造,光学的性質,電気的性質を評価した.その結果,Ca0.8Y2.4Sn0.8O6が酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーであることがわかった. 1273 Kでの結晶構造に基づいて計算したBVE図は,Ca0.8Y2.4Sn0.8O6の酸化物イオンの拡散が3次元であることを示唆した.この成果をDalton Trans.に出版した.また,我々のグループが発見した酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーであるBaNdInO4から派生して,CaFe2O4型酸化物としては初となる純酸化物イオン伝導体であるSrYbInO4を発見して,J. Phys. Chem. Cに出版してプレスリリースした.他にも多くの酸化物イオン伝導体の新構造ファミリーを発見しており,本課題は計画以上に成果を出している.結晶構造の詳細を研究することが高いイオン伝導度発現の原因究明にとって不可欠である.長年議論されてきたアパタイト型イオン伝導体における格子間酸素の有無について,単結晶中性子回折法による精度の高い実験により,これを解決した.本成果をJ. Mater. Chem. Aに出版し,プレスリリースした.本課題に関連して代表者の八島が化学会学術賞を受賞するなど八島研究室からは2017年度だけで12件の受賞があり,本課題の成果は高く評価されている.また新聞報道されるなど本課題の成果は注目されている.したがって,当初の計画以上に本課題は成果を出して進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
イオン伝導が報告されていない基本物質について結合原子価に基づいたエネルギー図を計算する.具体的には既に実施しているSnやGaの他,Geを含む系を選択して結合原子価の総和図を計算し,エネルギーが低い経路が格子を横切って連結するか否か、すなわちボトルネックが広いかどうかを調べる.経路が連結した物質群を実際に固相法により合成し、電気伝導度の温度依存性および酸素分圧依存性を調べる.合成した試料をX線回折(XRD),ICP元素分析などで化学組成と結晶相を調べ,単相ができているかどうか確認する.できない場合には、焼成温度と時間と冷却速度を工夫する.XRDデータのリートベルト解析で結晶相と不純物を精査、格子定数と陽イオンの位置を決定する.生成相の評価にはX線回折を用いる.イオン伝導性あるいは電気伝導性が確認されれば、化学組成を変えたサンプルを多数合成、電気伝導度を測定して高いイオン伝導度を示す新物質を探索する.イオン伝導度が高い組成の試料について室温から高温まで中性子回折および放射光X線回折実験により結晶構造,特に酸素原子の原子座標,占有率,原子変位パラメーターとイオン伝導経路を実験で調べて、結晶構造とイオン伝導度の関係を明らかにする.また,2015~2017年度に見出した,イオン伝導体の新しい構造ファミリーを基本組成とする様々な組成の合成を行い,電気伝導度と結晶構造を評価することにより優れたイオン伝導体を探索する.また,いくつかの優れたイオン伝導体については,イオン拡散経路を中性子回折と最大エントロピー法により,研究していく.例えば長年の謎であるパイロクロア型酸化物イオン伝導体におけるイオン拡散経路を高温中性子回折とMEMにより解明する予定である.
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備考 |
(2)と(3)の正式タイトルは「Discovery of a new structure family of oxide-ion conductors “SrYbInO4”」 (5)の正式タイトルは「Apatite-type materials without interstitial oxygens show high oxide-ion conductivity by overbonding」
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