研究実績の概要 |
本年度は均一系マルチフェロイックとしてk-Al2O3を有するAFeO3型結晶群を選択し、本構造を薄膜化してマルチフェロイック特性を評価した。本研究で目指す室温で動作するマルチフェロイックを得るために、まず、絶縁性が高く、室温で強誘電性を確認できるk-Al2O3型酸化物の強誘電性を確認すべく、物質探索も兼ねてA=Al, Ga, Fe, Sc, Inの系をSrTiO3基板上に堆積した。その結果、これらの物質は全てk-Al2O3型構造で堆積できることを確認した。また、これらの薄膜は全て基板に対してエピタキシャル成長していることを確認した。c軸配向した膜の微細構造を調べるため、薄膜X線、STEM-TEMで組織を調べたところ、10 nm程度の幅を持つドメインがc面内で配向したマルチドメイン構造を有することを確認した。また、いくつかの系では基板と薄膜の間に下部レイヤーが生成していることを確認した。また、D-Eループを測定したところ、上記全ての系で強誘電性を示すD-Eループが確認された。この結果をJFCCの小西、森分らの結果と比較すると、実測の分極値は計算値の20%程度であることを確認した。この計算値と実測値の差が出る原因について精査したところ、10nm程度のドメインの境界相で発生する空間電荷に起因することが推定された。また、これらの全ての系の磁気転移点(ネール点およびC-IC転移)を確認し、バルクの結果と比較して、それらの変化について考察した。 以上の予備的な実験の結果、k-Al2O3を有するAFeO3型構造は、室温で強誘電性を示し、室温以上でネール点を持つマルチフェロイックであることが確認された。今後は、これらの酸化物の磁化方向を電気分極と同じ方向に向ける工夫をする。また、構造を単分域化することで空間電荷が生ずる原因をなくし、かつ電気分極反転に対するピニング中心を無くすことで実測値が計算値に近づくことを期待する。
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