研究課題/領域番号 |
15H02311
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇田 哲也 京都大学, 工学研究科, 教授 (80312651)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロトン伝導性酸化物 / 燃料電池 / 水素ポンプ / セラミックス |
研究実績の概要 |
YをドープしたBaZrO3(BZY)は中温域で高いプロトン伝導性を示し、燃料電池、水蒸気電解による水素製造、水素ポンプ等の種々のデバイスの電解質材料として期待されている。BZYを電解質に用いるデバイスの水素極の材料としてはNiが最も有望視されるがBZYとNiを共焼結するとNiがBZY中へ拡散することによるプロトン伝導度の低下や反応生成物としてBaY2NiO5の生成といった問題がある。この問題の解決策として共焼結を経ずにNi電極を得るためにBZY電解質上への厚膜メッキによりNiのメタルサポート電極を得るプロセスを検討する。これまでにBZY電解質上にスパッタにより付与したNi薄膜をカソードとしてワット浴を用いた電析により作製したメタルサポート電極を有する燃料電池セルで600℃において1.35mWcm-2の出力密度での発電を実証した。 新規プロセスにより作製したメタルサポートセルでの発電が実証されたもののその出力は低い。セルの内部抵抗の内訳としてはIR抵抗と電極過電圧の両方が高くどちらも改善の必要がある。IR抵抗の低減のためには電解質厚みの低減が有効と考えられる。実証に用いたセルの電解質厚みは660um程度と厚く実験室レベルでは研磨による厚み低減のみでも十分なIR抵抗の減少が期待される。さらに検討を進めている転写法を用いれば電解質厚みを100um以下としIR抵抗をさらに減少させることが期待される。 転写法では、BZYとBCYの接合セルを作製し共焼結後にBCYの除去を溶融炭酸塩を用いて試みたが、焼結時にZrとCeが相互拡散し、純粋なBZYを得ることができなかった。今後、共焼結時のサポート材料の調査を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温還元法でNiが拡散したセルからNiの汚染を除去することに成功したが、カソードに焼き付けを行う際に、大気中で焼結を行った際に、Niの再酸化に伴う、セル強度の著しい劣化が発生した。種々対策を実行したが、本質的にその解決は困難である。従って、燃料電池ではなく、電気化学的水素ポンプでは、このような問題が発生しないため、本研究で開発した手法の適応にはこのような利用を考えるべきである。 転写法に関しては、サポート層にBCYを考え、また、BCY層のCO2による炭酸塩化と溶融塩フラックスを用いた除去にも成功したが、相互拡散が発生したため、BZY中にCeが観察された。拡散をしないサポート層としての候補物質はすでに見いだすことに成功しており、これを用いた転写法の実証を今後目指していく。 濃厚硝酸塩を用いた含浸法を行ったが十分な量のNiを含浸させることが出来なかった。含浸に関しては、今後抜本的な考え方の改善が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、転写法の継続研究、メタルサポートの研究を継続しつつ、以下の2点の研究を推進する。 前年度、代表的なカソード材料の焼き付け時の遷移金属の拡散の調査を行った。結果、LSCF、LSMの比較では、CoとFeの拡散が顕著である一方、Mnの拡散は軽微であった。これらの金属の拡散は、イオン輸率の低減を招くため本来望ましくない。そこで、本研究では、遷移金属の拡散がさらに軽微になるようにレーザー焼成などの新しい焼き付け法を考えていく。 また、Niの拡散は、高温還元法でクリーニングし粒界にNiを移動されることができることがわかったが、実験の一部では、Niが固溶したBZYではなくBaY2NiO5などのNi化合物の析出が電解質内に散見される。このような化合物は高温還元では、ポアの形成要因となり望ましくない。そこで、BaY2NiO5の生成要因を明らかとするため、BaO-NiO-ZrO2-Y2O3の4元系の状態図を構築し相平衡関係を明らかとしていく。 また、H29年度は最終年度であるので、研究の総括を行う。
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