研究課題/領域番号 |
15H02315
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山口 猛央 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30272363)
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研究分担者 |
大橋 秀伯 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (00541179)
大柴 雄平 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (10708530)
田巻 孝敬 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 講師 (80567438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ペプチドアプタマー / トロポニンI / 診断膜 / 急性心筋梗塞 / 生体分子認識 |
研究実績の概要 |
本研究は、生体システムの精緻で高度な制御機構から発想して、生体分子認識をトリガーとして膜細孔を開閉し出力する、新しい簡易医療診断用機能膜の開発を目的とする。ターゲットとして急性心筋梗塞の診断マーカーであるトロポニンI (cTnI)を用い、膜細孔壁から成長させた感温性ポリマー鎖にセンサー部位としてペプチドアプタマーを固定し、cTnIを多点でアプタマーが認識すると細孔内部に架橋点が形成され、刺激により細孔を開こうとしても、架橋構造により細孔が閉塞した状態を保持する膜システムを想定している。 昨年度のペプチドアプタマーポリマーにおけるcTnI結合能の検討により、cTnIに対する特異性が低くなるアプタマーが存在することが明らかとなった。そこで今年度は、ペプチドアプタマーポリマーの特異性向上を目指し、系中の塩濃度の検討を行った。アプタマーポリマーの相転移挙動の変化から、塩濃度を高くすることで、cTnIのみを選択的に認識することを確認した。 アプタマーポリマーの検討と同時並行で、作製したアプタマーポリマーを、多孔質膜基材に高効率にグラフト固定する基盤技術の構築を行った。多孔質ポリエチレン基材の細孔表面にプラズマグラフト重合法でN-isopropylacrylamideとglycidyl methacrylate (GMA)の共重合体を固定化し、続く開環反応とClick反応によってGMA中のエポキシ基を分子認識部位のモデル化合物であるビオチンに変換した。FT-IRより、膜中にビオチンが高効率に導入されており、ゲート膜作製に成功したことが確認された。この手法は収率も高く、Click反応を用いて高い収率と官能基選択性を実現することで任意の分子認識部位に適用できるため、汎用的にゲート膜作製が可能といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初予定していた通り、特異性向上に向けた刺激応答アプタマーポリマーの検討と分子認識部位を多孔質膜基材に高効率にグラフト固定する基盤技術の構築を行った。バッファー中の塩濃度を増加させることで、アプタマーポリマーのcTnI認識特異性が向上することを確認したのと同時に、分子認識部位を高効率にグラフト固定する膜作製法を開発した。今年度得られた結果は、簡易医療診断用機能膜を設計開発する際の重要な知見であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、28年度に確立した基盤技術を用いて、作製した機能膜のタンパク質認識及び温度刺激による細孔開閉の観察を行うと同時に、高感度化に向けた認識法や出力法の検討を行う。モデル標的タンパク質としてアビジンを用い、分子認識部位としてビオチンを導入した機能膜を作製する。低濃度の標的タンパク質水溶液を膜透過させ、認識・架橋をさせた後に、細孔開閉を観察する。膜の細孔開閉の情報を、水透過流速の変化として評価することに加え、浸透圧や金ナノ粒子透過による色変化、様々な溶質の阻止率などの検討を行うことで高感度検出を試みる。標的タンパク質水溶液の濃度を変化させて認識評価も行い、検出限界を評価する。さらに、実用化を指向した、標的タンパク質の高感度認識法の検討も行う。 平成30年度には、これまでに得られた知見を踏まえ、具体的な応用を指向し、心筋梗塞診断用ゲート膜の開発を行う。膜検出感度を最適化するために、基材細孔径、固定アプタマーポリマーの分子量・グラフト鎖数密度、アプタマーの固定量を変化させ、化学工学的手法による解析結果を基に、検出結果を膜開発にフィードバックし、膜構造の最適化を行う。
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