胎生期と異なり、成体組織の幹細胞の大部分は静止状態(G0/G1期)で、増殖能や分化能は低い。成体組織の幹細胞を胎生期のように活性化できれば修復や再生に有用と強く期待されているが、静止状態と活性化状態間の制御機構は不明である。今までに、胎生期の神経幹細胞はプロニューラル因子Mash1の発現振動によって増殖能と分化能が活性化状態にあることを明らかにした。一方、成体脳の神経幹細胞ではMash1は陰性であった。そこで、Mash1の発現振動を誘導することによって成体脳神経幹細胞の増殖能が活性化されるかどうかを解析した。 レンチウイルスを用いてMash1の光誘導システムを成体マウスの海馬歯状回に導入した。そこに、青色光を照射するオプトフラッシュ(小型LEDランプに光ファイバーをつないだ装置、バ イオリサーチ社製)を装着し、2.5時間周期の青色光照射を行った。3日後に脳切片を作製して免疫組織学的解析を行ったところ、レンチウイルス感染細胞の多くがMash1を発現しており、この光誘導システムで成体脳神経幹細胞にMash1の発現を誘導できることが確認できた。さらに、1週間後に脳切片を作製して免疫組織学的解析を行ったところ、レンチウイルス感染細胞の一部はKi67陽性になり、増殖能を獲得していた。また、別の感染細胞の多くはDcx陽性の幼若なニューロンに分化していた。したがって、成体脳神経幹細胞にMash1の発現振動を誘導することによって増殖能を活性化できることが明らかになった。 以上の結果から、遺伝子発現振動の重要性が明らかになるとともに、内在性の成体脳神経幹細胞の増殖能制御に向けた基盤技術が確立できた。
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