研究課題/領域番号 |
15H02352
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下郡 智美 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (30391981)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 樹状突起 / 神経活動 / 生後発達 |
研究実績の概要 |
これまでの成果でBtbd3は神経活動依存的にPlxnA4と選択的に結合してRhoAの活性を上昇させ、樹状突起の除去を行っていることを明らかにした。PlxnA4がRhoAの活性を上昇させるには、2両体を形成する必要があることがすでに報告されていることから、様々なBtbd3の変異体を用いてプルダウンアッセイを行い、PHRドメインを介してPlxnA4と結合したBtbd3が、BTBドメインを介してBtbd3の二両体を形成し、結果としてPlxnA4が二両体を形成することを明らかにした。そこで、このコンプレックス形成がin vivoで起きているのかを明らかにするために、たんぱく質間相互作用を可視化できるFluoppiシステム(生きた細胞内でタンパク質間相互作用(Protein-Protein Interaction, PPI)を測定するための基盤技術)を利用して測定した。FluoppiシステムにPlxnA4とBtbd3をそれぞれ構築し、Fluoppiコンストラクトを導入した初代分散培養系においてコンプレックスの形成を可視化した。さらに、PlxnA4とBtbd3コンプレックスの形成または乖離には神経活動のレベルが関わっていることが推測されたため、同時にRCaMPを用いて神経活動のレベルも同時に可視化した。この結果、カルシウムinfluxが低い場合にはたんぱく質コンプレックスの形成が促進され、カルシウムinfluxが高い場合にはたんぱく質コンプレックスの乖離が起きていることを明らかにした。このことから、個々の樹状突起で異なる神経活動レベルによって、PlxnA4とBtbd3コンプレックスの形成がコントロールされ、神経活動が低い樹状突起ではコンプレックスが形成されRhoAの活動が上昇することによって樹状突起の除去が行われていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
神経活動の低い樹状突起はBtbd3-PlxnA4コンプレックスによるRhoAの上昇で除去されるという樹状突起選択的な形態変化の分子メカニズムを明らかにすることができた。これらは、ノックアウトマウスの解析、子宮内遺伝子導入法による遺伝子の過剰発現、Neuro2A細胞を用いたin vitroのプルダウンアッセイを用いて分子のインターラクションが神経活動の違いによって起きることを明らかにした。また、神経活動の違いが、RhoAの活性をコントロールするメカニズムは、初代分散培養によるRaicyuタイプのRhoAの活性のFRETイメージング、初代分散培養によるGCamPのイメージングによって明らかにした。さらに、Btbd3の様々なミュータントを用いて、PlxnA4との結合ドメイン、およびPlxnA4の2両体化を行うことも明らかにし、詳細な樹状突起の形態変化に関わる分子メカニズムの詳細を明らかにした。現在はBtbd3のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、我々が明らかにした分子メカニズムをサポートする結果を得ている。さらには、in vivoでの樹状突起のイメージング、単一の樹状突起を操作する技術の開発にも取り組んでおり、ここまでの成果をin vivoで全て同時に観察する挑戦ができるための準備も整いつつある。同時に、in vivoでの操作が上手くいかない場合にスライスカルチャーを用いて遺伝子操作、神経活動の操作、分子イメージングが行えるように準備を進めている。これは、幼若期のマウス脳から視床―大脳皮質スライスを作成し、視床からの入力の操作および単一の樹状突起の神経活動の操作を可能にする。
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今後の研究の推進方策 |
選択的な樹状突起の形態変化を起こす分子メカニズムを明らかにしてきたが、すべての実験方法はin vitroの結果であり、神経活動、RhoAの活性、形態変化をバラバラの系で見ており、トータルでのメカニズムは推測した結果である。この結果をさらに確証のあるものにするためには神経活動、RhoAの活性、形態変化のすべてを同時に観察することが必要となる。しかし、初代分散培養では樹状突起の形態変化を観察することは難しく、形態変化が起きる細胞は直後に細胞死を起こすケースが非常に多い。このために形態変化を含めた、樹状突起内でのイベントを明らかにするためにはin vivoでの2光子顕微鏡を用いたライブイメージングが必要となる。幼若マウスでの in vivoイメージングの準備はすでにできているが、生後2日目からのイメージングは生存率が低いことや人口哺育を必要とすることから効率が悪いという問題点を克服する必要がある。そこで、臨界期が遅い視覚野も同時に利用して神経活動依存的な樹状突起の形態変化の観察を可能にする。あらかじめ視覚野にBtbd3を過剰発現させたマウスの生後14日目の視覚野での樹状突起のライブイメージングを行う。また、in vivoのイメージングが上手くいかない場合に備えてスライス培養を用いたカルシウムのアンケージング技術の開発も同時に行い、詳細なマニピュレーションが行える方法の確立を行う。これらの実験にもあらかじめ子宮内遺伝子導入法によって遺伝子導入が施されたサンプルやノックアウトマウスを利用して、局所的なカルシウム濃度がどのように分子動態変化させて樹状突起の形態変化につながるのかそのメカニズムを明らかにする。in vivoでの神経活動依存的な樹状突起の形態変化を可視化し、かつin vitroで局所のカルシウム濃度を操作することにより、神経活動と形態変化、そしてその分子メカニズムの全容を明らかにする。
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