研究課題
がんの悪性進展機序を理解する鍵として、幹細胞特性の獲得・維持機構が注目されている。本研究では、正常およびがん組織における幹細胞特性を研究対象として、栄養環境シグナルに焦点を当て、がん悪性進展の分子基盤の解明に取り組組んでいる。本年度は、mTOR複合体1 (mTORC1)の活性化因子であるRhebのT細胞系白血病(T-ALL)における役割を解析した。マウスモデルに加え、CRISPR/CAS9によるRHEB欠損ヒトT-ALL細胞株での解析を実施した。その結果、Rhebは核酸代謝を制御することにより、その増殖を支持していることが判明した。一方、脳腫瘍においては,mTORC1の負の制御因子である TSC1欠損膠芽腫モデルを用いて,mTORC1と悪性化の関連を検討した。その結果,mTORC1の活性亢進は,解糖系の亢進,ミトコンドリア機能の活性化を制御することにより,エネルギーの産生と需要のバランスを調和させることで、スフィア形成能や同所移植による腫瘍発症能の亢進など,膠芽腫の悪性進展を亢進させることを見いだした。さらに、ヒト脳腫瘍においても同様のシグナルが重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、mTORC2は、mTORC1と違い、エネルギーバランスというよりも、特定の白血病治療の感受性や悪性化機転において極めて重要な役割を果たしていることを見いだした。さらに,下流を探索することによって,メチオニン代謝や脂質代謝制御分子が重要である知見が見いだされた。以上の結果より、栄養シグナルががんの幹細胞性制御にとって重要な制御因子として機能していることが明らかになりつつある。
2: おおむね順調に進展している
前年度まで推進してきた基盤研究で得られた成果や材料を十分に活用し、解析を進めることができたため、順調に研究が進展していると考えられる。
栄養素やその感知シグナルに関する白血病・脳腫瘍未分化性制御メカニズムの解明を進め、将来の治療開発に寄与する成果を得ることを目標とする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
Blood
巻: 127 ページ: 2607-17
pii: blood-2015-10-673087
J Biol Chem.
巻: 291 ページ: 21496-21509
10.1016/j.jaci.2015.12.1319
Int J Hematol
巻: 103 ページ: 605-6
10.1007/s12185-016-2012-4