研究課題
ゲノム解析により、大腸がん発生および悪性化に関与する遺伝子変異が明らかにされており、その中でも高頻度に変異が認められる遺伝子として、4種類のドライバー遺伝子(APC、K-Ras、TGFBR2、p53)に着目した研究を推進している。本研究では、これらの遺伝子に複合的に変異を持つマウスモデルを作製し、大腸がんの自然転移・再発モデルを開発し、遺伝子変異とがん微小環境の相互作用による大腸がんの転移・再発機構の解明を目的として推進している。平成27年度の研究は、Apc/p53の複合変異マウスの解析、およびApc/K-Ras/p53とApc/K-ras/Tgfbr2複合変異マウスの作製を実施した。最近の報告では、ミスセンス変異型のp53が新たに発がん促進機能を獲得することが示されているため、本研究でもp53遺伝子欠損モデルと同時に、ヒト大腸がんで認められるR270H変異型のp53遺伝子変異モデルの双方を用いて解析した。興味深いことに、Apc p53(R270H)複合マウスでは顕著に浸潤性腸癌の発生頻度が高くなり、生存期間の有意な短縮が認められた。また、腫瘍細胞をマトリゲル中で3次元培養して形成さえるオルガノイドの形態も、p53(R270H)変異により顕著に腺管形成が亢進して浸潤能力も促進された。オルガノイドを用いたRNAシークエンスによる遺伝子発現解析は現在進行中であり、p53(R270H)変異は300以上の遺伝子の発現上昇を誘導する可能性が得られている。以上の変化はp53を欠損した腫瘍細胞では見られなかった。また、他の遺伝子型マウスへのタモキシフェン投与実験を開始し、平成28年度に腸管腫瘍の悪性度、転移再発の有無、およびオルガノイドを用いた、腫瘍細胞の生物学的な解析を推進する。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、複数のドライバー遺伝子変異の蓄積による、腫瘍細胞の形質変化を解明することを計画しているが、平成27年度の研究により、Apc/p53複合変異モデルにおける悪性化機構について、以下の変異p53に起因した新しい組織変化を明らかにすることが出来た。がん抑制遺伝子と考えられているp53だが、ミスセンス変異を起こしたp53によるGain-of-functionが発がん促進に作用することが指摘されている。本研究では、R270H変異により腸管腫瘍が間質増生をともなって浸潤性に悪性化すること、および腫瘍組織を3次元培養した際に腺管構造形成が誘導されるなど顕著な形態変化により浸潤性が高くなることなどを初めて明らかにした。今後の発現解析により、これらの変化を誘導する分子機構の解明が期待される。また、平成28年度以降に解析を推進するための、3遺伝子複合変異マウスはすでに作製し、解析の準備が整っている。
計画にしたがって、Apc遺伝子変異を基盤として、K-Ras、Tgfbr2、p53変異を導入したモデルを順次作製し、腫瘍細胞と微小環境の双方を含む症状を、病理学的および生化学的に解析する。とくに、各遺伝子変異のコンビネーションによる腫瘍細胞の形質変化を明らかにするため、各マウスモデルへのタモキシフェン投与により発症した腸管腫瘍を摘出し、マトリゲル中での3次元培養による研究を並行して推進する。これまでの解析で、複合マウスにおいては、腸管腫瘍症状の悪性化にともない生存期間の短縮が認められている。これらのマウスにおいて、生存期間が短いことが原因となって肝臓等への自然転移・再発が認められない可能性も想定されるため、オルガノイドを脾臓に移植した転移モデルの開発も同時に進める。各遺伝子変異の組み合わせによる生物学的な変化が明らかにされた場合、それらの細胞を用いたRNAシークエンス解析を行ない、腫瘍細胞の形質変化を誘導する分子機構の解析を推進する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 図書 (5件) 備考 (1件)
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http://genetics.w3.kanazawa-u.ac.jp