研究課題/領域番号 |
15H02362
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大島 正伸 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40324610)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大腸がん / マウスモデル / 自然転移モデル / 悪性化進展 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
がんゲノム解析により、大腸がんの発生および悪性化進展を誘導する遺伝子変異が明らかにされており、その中でも高頻度に変異が認められる遺伝子の中から、4種類のドライバー遺伝子(Apc、K-ras、Tgfbr2、Trp53)に着目した研究を推進している。本研究の目的は、ドライバー遺伝子変異とがん微小環境の相互作用による、大腸がんの転移・再発機構の解明であり、そのためにこれらの遺伝子に複合的に変異を導入した大腸がんの自然転移・再発モデルを開発し、研究を推進している。平成28年度は、Apc/Trp53複合変異のマウス腫瘍の解析を中心に実施し、Trp53(R270H)型変異が腸管腫瘍の浸潤を誘導すること、また腫瘍細胞をマトリゲル中で3次元培養した際に複雑な腺管構造を形成して浸潤能を獲得すること、そしてヒト大腸がん組織でも、コドン273近傍の変異は異常な腺管構造と相関することを明らかにした。さらに、Apc/Trp53複合変異腸管腫瘍細胞のRNAシークエンスによる発現解析により、350個のTrp53変異に特異的な発現誘導遺伝子群を特定した。これらの遺伝子プロファイルを用いてパスウェイ解析を実施した結果、自然免疫反応と炎症反応に関与するシグナル経路の有意な活性化が確認され、Trp53遺伝子変異は大腸がん組織に炎症性微小環境の形成誘導にも関与することが明らかになった。また、各モデルの交配により、Apc/K-ras/Tgfbr2、Apc/K-ras/Trp53の遺伝子型マウスを得た。これらのマウスへのタモキシフェン投与実験を行い、Apc変異によるWntシグナル活性化とTrp53またはTgfbr2変異の組み合わせが、原発巣の粘膜下浸潤を誘導することを明らかにした。今後、これらの複合マウスモデルのオルガノイド形成と、移植による転移実験を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、大腸がん発生と悪性化に関与が推測される複数のドライバー遺伝子変異と微小環境の相互作用による、悪性化誘導機構を解明することを計画している。平成28年度までの研究により、Apc/Trp53複合変異モデルにおける粘膜下浸潤等の悪性化誘導機構を個体レベルで詳細に解析し、がん抑制遺伝子として知られるTrp53の変異が、実際には新たに獲得した機能(gain-of-function)によって多くの遺伝子発現を誘導し、それが悪性化形質獲得に関与する可能性を明らかにすることが出来た。また、Apc遺伝子変異によるWntシグナル活性化に起因して形成される良性腫瘍は、TGF-βシグナルの遮断、あるいはTrp53遺伝子の活性化変異のどちらかが加わることで、腸管腫瘍の粘膜下浸潤が誘導されることを個体レベルで明らかにした。さらに、研究計画にしたがってApc、K-ras、Tgfbr2、Trp53の4つの遺伝子変異を有する複合マウスモデルの作製に成功しており、今後は3つまたは4つのドライバー遺伝子変異を有するモデルの原発巣腫瘍と、オルガノイドの移植による転移形成における、遺伝子変異と微小環境の相互作用について研究を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製した、ドライバー遺伝子3重変異および4重変異モデルにタモキシフェンを投与し、研究計画にしたがって、それぞれに発生する腸管腫瘍について、腫瘍細胞と微小環境の双方に着目して病理学的および生化学的に解析する。さらに、各遺伝子変異のコンビネーションによる腫瘍細胞の悪性化獲得形質変化を明確化するため、各マウスモデルに発生した腸管腫瘍を摘出し、マトリゲル中での腫瘍細胞3次元培養によりオルガノイドを作製し、浸潤能や形態変化の解析を推進する。オルガノイドを脾臓に移植した際の肝臓への転移モデル実験系の確立を同時に進める。オルガノイド移植による転移が認められた場合、オルガノイド細胞を蛍光標識して転移過程をイメージングにより解析し、また骨髄細胞を蛍光標識して、骨髄由来細胞による微小環境形成過程の解析を推進し、腫瘍細胞と免疫細胞、間質細胞の相互作用による転移巣形成過程を明らかにする。とくに、遺伝子変異の組み合わせが誘導する炎症性微小環境の違いについて着目して研究を推進する。
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