研究実績の概要 |
最近のゲノム解析により、大腸がん悪性化に関与するドライバー遺伝子が明らかにされている。これらの遺伝子変異の組み合わせによる大腸がんの悪性化進展の制御機構について、5種類の遺伝子(Apc, Kras, Tgfbr2, Trp53, Fbxw7)に着目し、マウスモデルを用いた解析と、マウス腸管腫瘍組織由来オルガノイドを用いた解析を実施した。平成28年度までにApc遺伝子に加えてTgfbr2またはTrp53変異により粘膜下浸潤が誘導され、さらにKras変異が加わることで上皮間葉転換(EMT)様の組織像を呈して脈管浸潤が誘導されることを明らかにした。 平成29年度は、様々な組み合わせのマウス腸管腫瘍から樹立したオルガノイドを免疫不全マウスの脾臓に移植し、肝臓への転移について解析した。その結果、Apc/Kras/Tgfbr2およびApc/Kras/Trp53を含む変異を有する腫瘍オルガノイドで肝転移が認められ、この組み合わせが血管内を循環する腫瘍細胞の転移巣形成に重要であることを明らかにした。さらに、Fbxw7変異は、ApcとKras変異との組み合わせにより、浸潤能は誘導しないがEMT様の悪性化をがん細胞で誘導し、腫瘍構造も絨毛型に大きく変化させることを明らかにした。重要なことに、粘膜下浸潤した腫瘍組織や肝臓転移巣では、間質の顕著な線維化という特徴的組織像が見られた。最近の報告では間質の線維化ががんの悪性化を誘導することが示されている。興味深いことに、Apc/Kras変異のマウス腫瘍は浸潤能を獲得しないために良性腫瘍の状態で維持されるが、Apc/Kras腫瘍オルガノイドを人為的に腸管粘膜下に移植すると、間質増生をともなう粘膜下浸潤がんが形成された。以上の結果から、ドライバー遺伝子の蓄積と間質反応の誘導が大腸がんの転移などの悪性化を誘導する可能性が考えられた。
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