研究課題
食道上皮組織は食道がんの由来臓器として、また近年の逆流性食道炎の増加など非常に重要な臓器であり、その組織維持機構の解明には食道上皮幹細胞の詳細な解析が必要であると考えられる。しかしながら、これまで食道上皮幹細胞は同定されておらず、また他グループより胃、小腸、大腸などの他の消化管上皮組織と異なり食道上皮組織には特異的幹細胞が存在しないとする報告(2014 Science, Doupe et al.)もあるなど多くの疑問が残されている。私たちはこれまでの研究において、多くの成体幹細胞に発現する汎幹細胞マーカーを用いた細胞系譜追跡法によって、食道上皮組織には特異的成体幹細胞が存在するという予備的結果を得て本研究プロジェクトに着手した。私たちは食道上皮基底細胞層に特異的に発現するマーカーであるSox2に着目、Sox2陽性細胞をSox2-GFPマウスから単離した。オルガノイド培養系を用いてSox2陽性細胞はオルガノイドを形成するが、Sox2陰性細胞はオルガノイドを形成しないことを確認した。上述のDoupeらの提唱するモデルではSox2陽性細胞は全て等しく成熟上皮細胞を供給する機能を有しており、その中に幹細胞という特別な細胞は存在しないと提唱されている。そこで、単離したSox2陽性細胞を単離して①single cell qPCR ②single cell RNAseqによる網羅的遺伝子発現解析を行った。一方で、舌上皮組織における味蕾幹細胞の研究において、味蕾組織と糸状乳頭組織の共通の幹細胞を同定し解析中である(論文投稿準備中)。
2: おおむね順調に進展している
①当初、単離した食道上皮幹細胞Sox2陽性細胞の単細胞RNAseqおよびその遺伝子発現解析が上手く行かなかったが、理研の二階堂研の助言を得て解析法を改良中である。。②研究1年目に関西医科大学実験動物飼育共同施設における大規模な感染事故に巻き込まれる形で、半年間研究停止に追い込まれた影響もあり、初年度は研究が大きく遅れたが、その後クリーン化したマウスを立ち上げ直して解析を進め、順調に研究は進行している。③シングル・セルqPCR法にてSox2陽性細胞内に複数の異なる細胞集団の存在が示唆されており、RNAseqによる網羅的遺伝子発現解析の結果が待たれる。④一方舌上皮組織における味蕾幹細胞の研究において、味蕾組織と糸状乳頭組織の共通の幹細胞を同定した。これらについては論文投稿準備中である。
①食道上皮基底細胞層(Sox2陽性細胞)を用いた単細胞RNAシーケンス法を用いて発現遺伝子の網羅的解析を進め、食道上皮組織の細胞代謝動態について発現遺伝子から予測する。②上記の解析において特に有望であると考える幹細胞マーカーについて、適切な細胞膜タンパク質遺伝子を選定し、フローサイトメトリーにて純化、これらが真に食道上皮幹細胞であることをオルガノイド培養にて証明する。③上記の解析において特に有望であると考える幹細胞マーカーについて、CreERT2ノックインマウスを入手、あるいは作製してレインボーマウス(多色細胞系譜追跡システム)と交配し、これらが真に食道上皮幹細胞であることを証明する。④舌上皮組織についても単細胞RNAシーケンス法を用いて発現遺伝子の網羅的解析を行い、味蕾および糸状乳頭の共通の幹細胞について詳細に解析を進めていく。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
Cancer Science
巻: 106 ページ: 489-496
10.1111/cas.12643
Biochemical and biophysical research communications
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http://www3.kmu.ac.jp/pathol1/index.html