研究課題
細胞分裂では染色体を正常に過不足なく分配されることが基本であるが、それには染色体を分ける微小管が正確に結合することが前提である。この仕組みはAurora Bというリン酸化酵素によってなされていることが近年の研究から明らかになっている。本研究では、このAurora Bが適正に働くためにはHP1という補助分子の関与が不可欠であること、即ち、HP1はAurora Bのアロステリックな活性化因子であることを見出した。試験管内での酵素速度論的解析によって、Aurora Bキナーゼの酵素反応効率を示すkcat値はHP1の存在によって約2倍高くなることが判明した。この結果より、細胞内でHP1と結合したAurora B複合体の量が減少するとAurora Bの機能が低下し、微小管の接続エラーが生じて染色体の分配が失敗するようになると示唆された。実際に、正常二倍体細胞においてHP1の結合が起こらないようにして、細胞分裂像を観察したところ、染色体分配異常(細胞分裂異常)が誘導され、本仮説が正しいことが示された。次いで、正常二倍体細胞と異数体となったがん細胞におけるAurora B複合体の状況を検討した。具体的には、正常細胞株と種々のがん細胞株のM期細胞を集めて、Aurora B複合体(HP1α/INCENP)を免疫沈降により精製し、そこに共沈するHP1の量を調べた。その結果、正常二倍体細胞株と比べ、調べ得た全てのがん細胞株でHP1の結合量が著しく減少していることが判明した。つまり、オーロラBに結合するHP1の量が減少していること、そしてその結果、オーロラBの酵素活性が低下していることを見出すことができた。これらの知見に基づいて、「がん細胞ではオーロラB複合体の量的な不均衡を来した結果、オーロラBのはたらきが弱まり染色体の分配異常を誘発している」ことを提唱した(Developmental Cell 36: 489-497, 2016)。
1: 当初の計画以上に進展している
研究構想に沿って効率よく研究を進めて論文発表に至ることができた。論文査読の過程で幾つかの本質的な指摘を受けたが、それらに応えることによって、HP1がCPCにどのような役割を持っているかを生化学的に追求することができたことは、今後、構造学的解析を進めていく上で有意義である。
研究は計画どおりに推進する。特に、HP1-CPCの相互作用の構造生物学的な解析、細胞の悪性化とHP1-CPCの形成との関連性の解析に力を入れて研究を進める。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
Developmental Cell
巻: 36 ページ: 487-497
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