研究課題
染色体パセンジャー複合体(CPC; Chromosomal Passenger Complex)は、Aurora Bキナーゼの活性によりM期における一連の染色体分配過程を制御する。とりわけ、微小管と動原体の結合という 染色体分配の「要所」において不可欠な役割を担っている。我々は、セントロメアにおけるAurora Bキナーゼの活性調節にHP1がアロステリック因子として不可欠な役割を担うことを見出した。重要なことに、異数体化したがん細胞株では、正常二倍体細胞株と比較して、CPCと結合するHP1量が著しく減少していることを見出し、がん細胞における染色体不安定性の分子背景を世界に先駆けて報告した。これに基づいて、本年度は、なぜHP1とCPCの結合量が減少するのか、その成因を明らかにすることを目的とした。1) まずがん細胞でHP1の発現量を実験的に増加したところ、それらの外来性HP1がCPCと結合した分だけ、内因性HP1の結合量が減少した。つまりがん細胞ではHP1と結合容量が低下していることが分かった。2) 正常二倍体細胞においてがん関連遺伝子を導入・不活性化して、いわゆる悪性形質転換を施すと、HP1の結合量が著しく減少した。細胞周期の暴走との関連性が明らかになった。3) 正常二倍体細胞において特定の染色体を導入してトリソミーとなった細胞を観察すると、やはりHP1の結合量が減少した。つまり、CPCの機能(=Aurora Bの活性)低下が、染色体の異数体化を誘導するが、ひるがえって異数性自体が、HP1とCPCの結合量を低下させることを意味していた。これらの観察から、CPCの機能は正のフィードバック機構によって維持されているが、がん細胞ではそれが壊れて低いレベルで機能が維持されていることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
染色体不安定性は、がん組織を構成する細胞の不均一性を増大させる要因であり、病期の進行したがんに共通してみられる性質である。その主因は、M期における染色体動態異常であることが指摘されてきた。本研究でわれわれは、染色体動態を制御する染色体パセンジャー複合体(CPC; Chromosomal Passenger Complex)の機能低下が広くがん細胞に見られ、それゆえに染色体不安定性をきたすことを報告した(Developmental Cell 36: 489-497, 2016)。
昨年度までの研究で、CPCの機能維持の背景には、正のフィードバック機構が重要な役割を担っていることを見出した(Cell Cycle 15:2091-2092)。本年度はこれを踏まえて、正のフィードバックの鍵となる「HP1とCPCの相互作用」について構造学的な解析を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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