研究課題
ゲノムワイド関連解析(GWAS)により複数の子宮内膜症関連一塩基多型(SNP)が報告されている。報告されたSNPは非転写領域に存在しているため近隣の遺伝子発現を調節することで子宮内膜症に関連すると推測される。GWASによって報告されるSNPはマーカーSNPに過ぎず、そのSNPと強い連鎖不平衡にある他のSNPが真の疾患リスクSNPである可能性がある。本研究では真の子宮内膜症リスクSNPの同定を行い、その分子メカニズムを明らかとすることを目的とした。子宮内膜症関連領域としてGWASで報告されているWNT4遺伝子周辺領域に含まれる2つのSNPを基準とし、それらと強い連鎖不平衡にあり、かつオープンクロマチン領域の指標とされるDNase I 高感受性部位に存在している8つのSNPを機能的SNPの候補として選択した。これらのうち、rs3820282はプロゲステロンレセプター(PRGR)とエストロゲンレセプターβ(ESR2)の認識モチーフ配列上に存在していることを明らかにした。また、バイオインフォマティクス解析の結果、プロテクティブアリルはPRGRに高い結合親和性を示し、リスクアリルはESR2に高い結合親和性を示した。このことから、当該SNPはアレルに応じて、プロゲステロンあるいはエストロゲンに選択的に応答し、WNT4遺伝子の転写制御に寄与する『ホルモン作用スイッチ』として働いていることが推察される。この仮説を細胞内で実証するため、rs3820282をヘテロに持つヒト子宮体癌細胞株(HEC265)を用いて機能解析を行った。rs3820282部位は近傍遺伝子であるWNT4プロモーターに対してクロマチン・インタラクションを形成することを確認した。さらに、ホルモン条件下でクロマチン・インタラクションおよびWNT4遺伝子発現のアレル特異性について検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
GWAS hitの9p21領域のSNPについては我々が独自に開発したallele-specific chromosome conformation capture(AS3C)法によりリスクアレルではANRILプロモーターとの相互作用が弱くなり、ANRIL転写に影響を及ぼすことを明らかにし論文発表した(Nakaoka et al. PLOS Genet 2016)。今回はさらにWNT4領域において、エストロゲン、プロゲステロンのホルモン作用スイッチが働きWNT4転写量を変化させることをAS3C法で示すことができた。
子宮内膜症のGWASによりいくつかの遺伝要因が報告され、集団によっても異なることが示されている。この結果は環境要因の関与が強いことを再確認させる。これまでの手法により関連SNPの機能的関与を明らかにし、遺伝要因としての全貌を明らかにするが、同時に環境要因との相互作用解析も始めたい。疫学的調査により、経口避妊薬を服用している人、経産婦では子宮内膜症の罹患率が低いことが知られている。このような環境要因と遺伝要因との相互作用を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
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