研究課題/領域番号 |
15H02380
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
高村 典子 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, フェロー (80132843)
|
研究分担者 |
今藤 夏子 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (10414369)
山口 晴代 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 研究員 (20722672)
中山 剛 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40302369)
辻 彰洋 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40356267)
角谷 拓 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (40451843)
松崎 慎一郎 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (40548773)
牧野 渡 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90372309)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 生態系観測 / メタバーコーディング / 生物多様性 / 湖沼生物モニタリング / 因果関係推定解析 / 湖沼生態系 / 食物網 / 霞ヶ浦 |
研究実績の概要 |
2015-18年の霞ヶ浦長期モニタリングで採取した水を用い、珪藻の葉緑体rbcL-3P領域による環境DNAを、NSGを用いて解析した。その結果を各植物プランクトン種の計数データと比較したところ良い相関が得られた。動物プランクトン群集組成を種レベルで記述するメタバーコーディングの実用化を目指し、霞ヶ浦には出現しないタクサについても、ミトコンドリアCOI遺伝子および18SrRNA遺伝子の塩基配列情報を解析した。隠蔽種が存在することがわかった霞ヶ浦のタクサについては、霞ヶ浦データベース上の、過去40年間の個体数変動を、隠蔽種ごとに区別する解析も行った。 2016年に採集したワカサギ72個体の餌生物の種構成に対し、採集時期や相対的な体のサイズ、肥満度が与える影響について冗長性解析とパーミューテーション検定によって調べた。その結果、餌生物の種構成は、採集時期と相対サイズが有意に相関していることが明らかになった。安定同位体解析と糞粒を用いた環境DNA解析等を行い、イサザが主に植物プランクトンを利用していることを明らかにした。 CCM法を用いて、霞ヶ浦の一次生産量、環境要因、栄養塩、動物プランクトン間の因果関係の有無、方向性を分析した。季節変動の影響を考慮するためサロゲートデータを用いてCCMを行った結果、溶存態窒素と植物プランクトンの群集組成によって一次生産量が駆動されていることが示唆された。また、動物プランクトンからのトップダウン効果を検出されず、むしろ、一次生産量がワムシ類、ケンミジンコ類の動態を決定していることが示唆された。また、回帰分析でワムシ類とケンミジンコ類の個体数はワカサギのCPUEと正の相関関係が認めれた。以上より、栄養塩→植物プランクトン→ワムシ類・ケンミジンコ類のボトムアッププロセスが、プランクトン食魚の資源量を支えるメカニズムとして機能していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藻類培養株が確立されているにも関わらず、ユニバーサルの18S rRNA遺伝子プラマーで18S rRNA遺伝子の増幅が確認できない培養株があり、その条件検討が必要であるが、概ね順調にDNAバーコーディングが進んでいる。植物プランクトンの環境DNA解析の結果は、従来の顕微鏡を用いた計数と高い相関が得られ、環境DNA解析の有効性を明らかにした。 霞ヶ浦を事例として、NGSを使った動物プランクトンモニタリング調査を実現するために必要なDNA塩基配列ライブラリーを構築することができた。過去40年にわたる霞ヶ浦動物プランクトンモニタリングデータの解析においても、従来の形態に基づく種判別よりも、DNAバーコードに基づく種判別を採用した方が、高い精度で分析できる可能性を示すことができた。 霞ヶ浦に生育する生物に関するデータベースフォーマットを作成し、緑藻に関する部分のデータ入力を行った。データとしては、基本的分類情報とともに、生物の形態・生態情報、画像情報、及びバーコード配列情報を含めた。 ワカサギの餌構成解析について、季節が6月から9月に進むと、ミジンコの割合が有意に増えるのに対し、イサザアミは減少することがわかった。一方、相対サイズとイサザアミの割合には有意な正の相関がみられ、カイアシ・ケンミジンコに対しては有意ではないが負の関係(P<0.1)がみられた。大きなワカサギ個体は大きなサイズの餌、小さな個体は小さなサイズの餌を好むと考えられた。6月から9月という短期間でもワカサギの捕食する餌生物の構成が有意に変化した。 サロゲートデータを用いたCCM法を適用することで、季節変動の影響を考慮した因果関係の推定が可能となった。また、漁業センサスのデータから、ワカサギの個体数密度(CPUE)を推定し、動物プランクトンの動態と魚類の動態の関係について分析が可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
藻類種について、18S rRNA遺伝子の増幅が認められない藻類株についてはNGSを用いた全ゲノム解析を行い、その結果から18S rRNA遺伝子の抽出を行う。藻類のアンプリコン解析の高度化について、さらなる検討を行う。引き続き霞ヶ浦長期モニタリングで採取された水について環境DNA解析を行い、出現する植物プランクトン種の定量性や精度、同定上の問題について検討する。環境DNA解析についてコストの安いNanoporeを検討する。シアノバクテリアについて、ITS領域を用いた種レベルでの解析が可能かどうかを検証する。 動物プランクトン種については、H29年度までに得られた動物プランクトンのDNA塩基配列情報を、形態や出現時期などの情報とあわせて記録するデータベースを作成する。また、ソコミジンコ類や介形類などの底生性微小甲殻類を新たに解析対象に加え、ミトコンドリアCOI遺伝子および18SrRNA遺伝子のDNA塩基配列情報を取得する。 本研究プロジェクトの結果を総合し、霞ヶ浦生物データベースにおける植物プランクトン、動物プランクトン、ベントス、魚類のデータ入力、及びNGS解析の照会用バーコード配列データの整理を行う。 ワカサギの餌生物の種構成の時間変化を決める要因についてさらに解析をすすめる。前年度の成果より、餌の種構成は季節と体サイズに有意に影響を受けていることが分かったが、そのほかの環境要因、すなわち湖水中の動物プランクトン相などに影響を受けているのかについて解析する。 CCM法の有効性を、他のデータセットで検証する。窒素動態とリン動態の相互関係、植物プランクトン間の関係、アオコの発生要因などについて因果関係分析を試みる。
|