研究課題/領域番号 |
15H02386
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今田 勝巳 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40346143)
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研究分担者 |
川岸 郁朗 法政大学, 生命科学部, 教授 (80234037)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造生物学 / 生物物理 / 細菌 / 結晶構造解析 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
病原細菌の多くは、III型分泌系と呼ばれる超分子複合体を用いて病原性分子を宿主細胞へ直接送り込み、宿主の生理機能を制御することで感染する。本研究ではIII型分泌の分子機構を明らかにするため、III型分泌系で最も研究が進んでいるべん毛III型輸送装置を対象とし、III型分泌の構造動態の解明を目指している。輸送基質/シャペロンと輸送ATPase複合体/輸送ゲートとの相互作用を、電子顕微鏡解析、結晶構造解析、反転膜小胞(IMV)を用いた機能解析結果を統合し、III型分泌系の構造基盤をを明らかにすることを目的としている。以下に今年度の成果を記す。 ・ 電子線トモグラフィー撮影のため、IMV試料作成条件の検討と撮影条件の検討を進めた。また、輸送ATPase 複合体を構成するFliIとFliHを保持する菌体と欠く菌体から作成したIMVそれぞれの電子線トモグラフィーを行った。両者の比較から輸送ATPase 複合体に起因すると考えられる密度を同定できた。この密度は、べん毛形成が最終段階にあるミニセルを用いたこれまでのトモグラムと明らかに異なり、輸送段階による構造の違いを示唆する。 ・ 輸送ATPase 複合体を構成するFliIとFliHフラグメントの結晶構造解析に成功した。FliHはV-ATPaseのstalkと同様の構造であった。結晶構造に基づきATPase 複合体モデルを作成し、ミニセルから得られたクライオ電子顕微鏡像と比較したところ、両者はきれいに重なった。また、結晶構造に含まれないN末領域がコイルドコイルを形成すると仮定すると、N末領域の先端はC-リングと相互作用できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子顕微鏡解析については、輸送ATPase 複合体を構成するFliIとFliHを保持する菌体と欠く菌体からIMVを作成し、輸送能を確認したIMVについて、試料作成とトモグラフィー撮影条件の検討を進めた。ミニセルを用いたこれまでのトモグラムではべん毛繊維があるため基部体を発見しやすいが、IMVではロッドまで、もしくはMS-ringのみであるため、IMV中に基部体を見出すのに熟練を要する。そのため、像数を稼ぐのが難しい。途中、電子顕微鏡の故障により長期にわたり像取得ができなくなるアクシデントがあったが、IMV中にフックを形成させて発見しやすくしたり、low pass filterの掛け方を工夫するなどにより、画像収集ができるようになった。 輸送ATPaseの構造解析については、FliIとFliHフラグメント複合体の結晶構造解析に成功し、た。得られた結晶構造はFliH2-FliI複合体を形成していたが、FliI部分はリング複合体を形成していなかった。そこで、F1-ATPaseの構造をテンプレートにしたリング構造モデルを作成し、低分解能電子顕微鏡像に当てはめたところ、良い一致を示した。これらの成果について、PDBに登録、論文発表を行った。一方、6量体リング構造の解析を目指して、好熱菌由来FliIの発現/精製/キャラクタリゼーションを開始した。順調に進んでいる。 輸送シャペロンおよび輸送基質/シャペロン複合体の構造解析については、FlgNの構造解析、FlgN-FlgK複合体, FlgN-FlgL複合体、FliT-FliD複合体の精製/結晶化を進めている。複合体については、まだ結晶が得られていないため、フラグメント化する等の工夫が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
電子顕微鏡解析については、まだ像収集効率が悪いため、試料作成条件の検討をさらに進める。また、外膜とペプチドグリカン層の無いIMVからを温和な条件下で可溶化した基部体試料の精製を行い、単粒子解析を見据えた試料作成法を試みる。輸送ATPase複合体については、好熱菌試料を用いて輸送ATPase複合体試料の作成し、結晶化を行う。また、高速AFMを用いた構造動態の観察を行う。輸送ゲート蛋白質については、発現に成功したFliP、FliOの精製結晶化を試みる。輸送シャペロン複合体については、FliT-FliD複合体、FlgN-FlgK、FlgN-FlgLの結晶化を引き続き進める。その際、基質側のフラグメントを作成し、それらの結晶化も試みる。
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