研究課題
病原細菌の多くは、感染するためにIII型分泌系と呼ばれる超分子複合体を用いて病原性分子を宿主細胞へ直接送り込む。本研究ではIII型分泌の分子機構を明らかにするため、III型分泌系で最も研究が進んでいるべん毛III型輸送装置を対象とし、電子顕微鏡解析、結晶構造解析、反転膜小胞(IMV)を用いた機能解析結果を統合し、III型分泌系の構造基盤をを明らかにすることによりIII型分泌の構造動態を解明することを目指している。以下に今年度の成果を記す。・ IMV実験からFliH-I複合体を加えると輸送が著しく増加することが明らかになった。そこで、FliH-I複合体を加えたIMVの電子線トモグラフィーを行い、像の平均化を試みた。しかし、像数が少ないこととIMVの膜形状に平均像が引きずられることから、鮮明な像は得られていない。一方、IMVを温和な条件で可溶化した後に基部体を精製し、負染色像を観察した。すると、基部体のEnd-on viewにおいて、FlhAに相当すると思われる構造を持つ基部体が多数見つかった。・ 好熱菌由来の輸送ATPase FliIの精製に成功した。Monomer画分は安定で結晶化にも成功した。しかし、6量体は解離しやすいため、サルモネラFliIの構造を参考にシステインをNドメインの2カ所に導入し、6量体の安定化を図った。この試料を用いて結晶化を行っているがまだ結晶は得られていない。また、高速AFMによる観察を行い、3回回転対称をもつリング構造を確認した。・ 輸送ゲート膜蛋白質FliPの発現・精製に成功し、結晶化を行った。微結晶が析出している。・ べん毛キャップ蛋白質FliDとそのシャペロンであるFliT複合体の結晶が得られ、回折データーを収集した。FliTの構造を用いた分子置換法を試みたが、解は得られなかった。Se-Met体もしくは同型置換体結晶が必要である。
2: おおむね順調に進展している
電子顕微鏡解析については、IMVをおだやかな条件で界面活性剤を用いて処理して可溶化して基部体を精製し、輸送ゲートを保持した単粒子試料の作成を行った。IMVは外膜とペプチドグリカン層がないことから温和な条件で基部体の可溶化できるため、これまでできなかった輸送ゲートを保持した単粒子試料の作成ができる可能性がある。精製試料を負染色で観察したところ、Cリング内に輸送ゲート蛋白質FlhAの細胞質側リング構造と思われる密度を観察した。この試料の大量作成に成功すれば、単粒子解析により分解能の高い輸送装置複合体構造を明らかにできる可能性がある。輸送ATPase複合体については、好熱菌試料を用いたFliI単量体試料について結晶が得られたが、複合体試料は収量が少なく、解離しやすいことが問題であった。そこで、システインを2カ所導入して複合体の安定化を試みたところ、複合体を安定して精製できた。また、高速AFMを用いた観察を行ったところ、3回回転対称をもつリング構造を確認した。しかし、ATP添加による構造変化は観測できていない。好熱菌であるため、常温ではATPase活性が低いことが原因として考えられる。輸送ゲート蛋白質については、FliPの大量精製が進み、結晶化スクリーニングを行ったところ、いくつかの条件で微結晶が析出した。X線を当てたところ、タンパク結晶であることを確認した。FliOは収量が少なく、大きな複合体が生じる。電子顕微鏡観察では、形の異なるリング様構造があるが一様ではないため、精製法のさらなる検討、または電子顕微鏡による単粒子解析へとシフトする必要がある。輸送シャペロン複合体については、FliT-FliD複合体について結晶が得られ、3.15A分解能の回折強度データーを収集した。しかし、FliTの構造を用いた分子置換では解析できなかったため、Se-Met体結晶を作成する必要がある。
電子顕微鏡解析については、フックを持つ試料の像収集を進める。また、IMVから可溶化作成した基部体試料のクライオ電子顕微鏡による観察を試みる。輸送ATPase複合体については、架橋試料の結晶化と高速AFMを用いた構造動態の観察を行う。好熱菌試料については、温度を上げて観察を行う。輸送ゲート蛋白質についてはFliPの結晶構造解析を進める。FliOについては、電子顕微鏡観察を試みる。輸送シャペロン複合体については、FliT-FliD複合体のSe-Met体結晶を作成し、構造解析を進める。
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Mol. Microbiol.
巻: 101 ページ: 656-670
10.1111/mmi.13415