研究課題
平成27年度は、神経軸索再生におけるsvh-2発現誘導機構について、Ca2+/CEBP-1とcAMP/ETS-4を介したsvh-2の発現誘導に焦点を当てた解析を行った。その結果、この2つのシグナルの活性化が、svh-2の神経における発現誘導に必要十分であることを明らかにした。また、ets-4変異による再生率低下はsvh-2の発現により抑圧されるが、Ca2+/CEBP-1およびcAMP合成の変異体における軸索再生率低下は、どちらもsvh-2の発現によりほとんど抑圧されなかった。このことから、これら2つの経路がsvh-2発現誘導だけでなく、他の未知の経路をそれぞれ活性化することにより、神経軸索再生に寄与することが示唆された。以上の成果はPLoS Genetics誌に論文として発表した。さらに、神経軸索切断が転写因子HIF-1を介して、非セロトニン産生神経においてTPH-1などのセロトニン合成酵素の発現を誘導する現象についても解析を行い、実際に切断神経において異所的なセロトニンの産生が起きていることを生化学的に確認した。合成されたセロトニンは、セロトニン受容体の一つであるSER-7を介してRHOシグナルを活性化することにより、ジアシルグリセロールキナーゼを抑制してジアシルグリセロール下流のPKCを介したJNK MAPキナーゼ経路を活性化する。また、SER-7からのシグナルは、アデニル酸シクラーゼACY-1を介してcAMP経路を活性化すること、そしてRHOシグナルとcAMPシグナルの両方がSER-7下流の経路として必要十分であることも証明した。本成果については、Nature Communications誌に論文として報告した
1: 当初の計画以上に進展している
これまでの研究から、当初計画のうち、(1)JNK、p38 MAPK、cAMP経路からなる軸索再生制御ネットワークの解明については、ETS-4を中心とした転写制御の詳細について解析することにより、cAMP/ETS4シグナルとDLK/p38/CEBPシグナルの2つのシグナル伝達経路の活性化、およびその後の複合体形成が、神経軸索切断後のJNK経路の活性化に不可欠なsvh-2の発現に必要十分であることを明らかにすることで、3者のシグナルネットワークの関係について分子レベルで明らかにした。この成果については、最終的に論文として発表した。(2)MLK-1のdual phosphorylationによる制御についても、これまでの解析からdual phosphorylationのうち、明らかでなかったセリンリン酸化の経路について、(i)セロトニン/Gα12/RHO/DGK/ジアシルグリセロールの制御経路が、PKCを介してMLK-1のセリンリン酸化を行うこと、(ii)そのセロトニンは、本来セロトニンを産生しないはずの神経が軸索を切断されることでセロトニン産生神経に一時的に異分化することで産生されること、(iii)その異分化は転写因子HIF-1によって誘導されること、を発見した。これらの成果についても、論文として発表した。上述の研究計画の進捗については、当初の予定より早く、かつ当初は予期していなかった驚くべき制御系の発見に繋がっている点で、当初の予想以上の成果を収めたと言える。
今年度は、当初計画のうちまだ論文の形で最終的に発表していない、(3) RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係について、重点的に解明して行く。これまでの研究から、神経軸索再生を制御する因子の一つとして、Rho結合タンパク質rhotekinの線虫ホモログであるrtek-1を同定しており、それがRhoキナーゼ(ROCK)の線虫ホモログLET-502の上流で機能することを見つけている。しかし、RTEK-1の当該経路上での具体的な役割については明らかではないので、それについて分子生物学的・生化学的手法により検討する。また、LET-502がミオシン軽鎖のリン酸化することで神経軸索再生を制御することもわかっているが、そのリン酸化を介して制御されると考えられるアクトミオシン系が、線虫の神経軸索再生において時空間的にどのように振る舞い、そしてそれらがRho/ROCKシグナルによりどのように制御されているのかは明らかではない。そこで、野生型およびlet-502変異体でアクチンやミオシンを蛍光タンパク質でそれぞれ可視化し、それらの切断神経軸索内の動態について観察と解析を行うことにより、Rho/ROCKシグナルによるアクトミオシン系の時空間的制御について解明する。また最近、RHO-1経路上で神経軸索再生を制御する因子として、BRCA2の線虫ホモログBRC-2を新たに同定した。予備的な解析から、BRC-2はLET-502およびミオシンの上流で機能することにより、神経軸索再生を制御するという知見を得ている。そこで、神経軸索再生における、BRC-2のRho/ROCKシグナルに対する役割について解析を行う。具体的には、BRC-2と結合する因子を同定し、その機能について遺伝学的・分子生物学的および生化学的に解析することにより明らかにして行く予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
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