研究課題
平成28年度は、(1) JNK MAPキナーゼ(MAPK)、p38 MAPK、cAMP経路からなる軸索再生制御ネットワークの解明として、新たに受容体型チロシンキナーゼDDR-2がJNK経路を通じて神経軸索再生を制御することを見出した。遺伝学的解析から、DDR-2の作用点は受容体型チロシンキナーゼSVH-2の上流であることが明らかとなった。さらに、DDR-2の哺乳動物ホモログがコラーゲンにより活性化することから、線虫DDR-2のリガンドを探索した結果、IV型コラーゲンがその上流で機能することを遺伝学的に確認した。さらに、生化学的な解析により、DDR-2の細胞質ドメインはアダプタータンパク質SHC-1と常に結合しており、SHC-1を介して増殖因子により活性化されたSVH-2と複合体を形成することも見出した。以上のことから、コラーゲンにより活性化したDDR-2は、SHC-1およびSVH-2と複合体を形成することで、神経軸索再生を制御することが示された。本成果は、PLOS Geneticsに掲載された。(2) MLK-1 MAPKKKのdual phosphorylationによる制御については、昨年度に報告したセロトニンによるMLK-1 セリンリン酸化制御が成虫期でのみ機能していたことから、幼虫期の神経軸索再生におけるセリンリン酸化経路について探索した。その結果、MAP4KであるMAX-2が幼虫期におけるセリンリン酸化を担っていることが判明した。さらに、MAX-2はGTP-結合タンパク質Racにより活性化され、Racはインテグリン-Rac GEF経路により活性化されることで、神経軸索再生を促進することが明らかになった。本成果はJournal of Neuroscienceに掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画のうち、(1) JNK, p38, cAMP経路からなる軸索再生制御ネットワークの解明については、新たに受容体型チロシンキナーゼDDR-2がJNK経路を通じて神経軸索再生を制御することを見出した。さらに、DDR-2がSHC-1を介してSVH-2に結合することで、神経軸索再生を制御することを明らかにした。この成果については、最終的に論文として発表した。また、(2) MLK-1のdual phosphorylationによる制御についても、昨年度報告したセロトニン-Gα12-RHO-PKC経路とは別に、MAP4KであるMAX-2によるMLK-1のセリンリン酸化の制御を新たに見出し、その上流でインテグリン-Rac GEF-Rac経路が機能することも明らかにした。この成果についても、論文として発表した。上述の研究計画の進捗については、当初の予定より早く、かつ当初は予期していなかった驚くべき制御系の発見に繋がっている点で、当初の予想以上の成果を収めたと言える。(3) RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係の解析についても、BRCA2の線虫ホモログBRC-2によるRho経路上での役割について解析を進めており、BRC-2に結合する因子を新たに同定している。以上のことから、(3)の進捗状況も十分であると言える。
今後は、平成28年度までに発見したインテグリン-Rac GEF-Rac-MAX-2経路について、その上流で機能する細胞外因子の探索を行う。我々はこれまでに、神経軸索再生制御に関わる因子の候補として92個の遺伝子を同定しており、その多くが未解析であるが、その中には複数の細胞外分泌因子が存在している。それらのうちのどれかが、インテグリンに結合して神経軸索再生を制御する可能性が考えられる。そこでまず、それらの分泌因子の中から、神経軸索再生に関与するものがあるかどうか、変異体を用いて同定する。同定後は、それがインテグリン-Rac GEF-Rac-MAX-2経路上で機能するか遺伝学的に解析を行う。さらに、インテグリンと結合するか、生化学的手法により検討する。それにより、神経軸索再生においてインテグリンの上流で機能する分泌因子を同定する。また、(3) RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係の解析については、BRCA2の線虫ホモログBRC-2がRho経路上で機能することまではわかっているが、どのような因子に作用して機能しているかは不明である。そこで、Rho、LET-502やMLC-4などのRho経路で機能する他の因子とBRC-2の相互作用について、生化学および酵母Y2H法により検討する。一方、BRC-2に結合する因子として同定されたALP-1については、神経軸索再生への関与の有無を明らかにする。神経軸索再生に関わることが判明した場合には、これがRho経路上で機能するのかについて検討する。さらに、ALP-1に結合する因子についても探索する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (10件)
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