研究課題
1)研究実績の概要平成29年度は、(3)「RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係」のサブテーマを中心に、解析を行った。昨年度までに、乳がん原因遺伝子BRCA2の線虫ホモログBRC-2について、神経軸索再生を制御するRhoシグナル伝達経路上での役割解明を進めてきた。今回、遺伝学的なエピスタシス解析を行った結果、BRC-2は線虫のRhoキナーゼLET-502の上流で、ミオシン軽鎖MLC-4のリン酸化を介して、軸索再生を制御することが示された。また昨年度、BRC-2と結合する因子として、LIMドメインタンパク質ALP-1を同定していたので、alp-1遺伝子欠損変異体でも軸索再生を解析した結果、brc-2変異体と同様に再生率の低下が認められた。alp-1遺伝子はLIMドメインを1つ持つALPの線虫ホモログALP-1aと、LIMドメインを4つ持つEnigmaの線虫ホモログALP-1bの2つの異なるタンパク質をコードしている。そこで、ALP-1aとALP-1bのどちらが軸索再生の制御に関与するのか、レスキュー実験により検討した。その結果、ALP-1aはalp-1変異体における軸索再生率低下の表現型をレスキューしないのに対し、ALP-1bはレスキューしたことから、Enigmaの線虫ホモログであるALP-1bが神経軸索再生に関与することが明らかとなった。さらに、alp-1の遺伝学的な作用点についてエピスタシス解析により検討した結果、LET-502とMLC-4の間で機能することが示唆された。一方、(2)「MLK-1のdual phosphorylationによる制御」については、昨年度までに報告したインテグリン-RacGEF-Rac経路の上流で機能する因子の探索を行い、新たな分泌型タンパク質を候補遺伝子として同定することに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画のうち、(1)「JNK、p38、cAMP経路からなる軸索再生制御ネットワークの解明」と、(2)「MLK-1のdual phosphorylationによる制御」については、受容体型チロシンキナーゼDDR-2がSHC-1を介してSVH-2に結合することで、神経軸索再生を制御すること、およびインテグリン-RacGEF-Rac経路がMAP4KであるMAX-2によるMLK-1のセリンリン酸化を介して機能することを、それぞれ明らかにして、すでに論文として発表している。ここまでの段階で、当初の予想以上の速さで成果が出ているが、さらに(2)のテーマにおいて、インテグリンの上流で機能する因子の候補も得ており、予想を大きく上回る進展を見せている。また、(3)「RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係」についても、BRCA2の線虫ホモログBRC-2によるRho経路上での役割について解析が進んでおり、結合因子ALP-1についての研究も順調に進展している。以上のことから、(3)の進捗状況も十分であると言える。
今年度は、(3)「RHO-1による軸索再生制御とJNK経路との関係」について、BRC-2、ALP-1、LET-502およびMLC-4タンパク質がどのような関係性にあるのか、生化学的手法により検討する。また、(2)「MLK-1のdual phosphorylationによる制御」については、平成29年度に同定した新たな分泌型タンパク質について、インテグリンとの関係や、さらに上流で機能する因子の探索を行う。これらの解析から、最終的にMLK-1のリン酸化を誘導して再生を促進するシグナルの正体を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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