平成30年度は、「MLK-1のdual phosphorylationによる制御」で、昨年度までに報告したインテグリン-RacGEF-Rac経路の上流で機能する因子として同定した新たな分泌型タンパク質TTR-11の解析を行なった。生化学的な解析から、TTR-11はインテグリンと脂質の一種であるホスファチジルセリン(PS)の両方にそれぞれ結合した。これまでの研究から、PSは細胞膜の細胞質側に存在し、通常の状態では細胞外に提示されることはないとされる。そこで、実際にPSが軸索切断後に細胞外に提示されるのか、PS結合タンパク質である哺乳動物MFG-E8のC2ドメインを用いたレポータータンパク質を線虫で発現させて検討した。その結果、PSが切断後数分で切断領域周辺の細胞外領域に蓄積することが明らかになった。次に、このPS提示に関わる因子を探索したところ、ABCトランスポーターCED-7が、切断後のPS提示に必要であることが判明した。また、ced-7欠損変異体では再生率の低下も観察された。この再生率低下はCED-7を切断神経で発現することでレスキューできたことから、CED-7は切断神経で軸索再生を制御することが示唆された。さらに、上流の因子を探索した結果、カスパーゼ3の線虫ホモログCED-3も、軸索再生および軸索切断後の切断領域周辺へのPS提示に必要であることが判明した。さらなる解析から、CED-3の上流ではカルシウムシグナルが機能していること、またCED-3はCED-7のC端の細胞質ドメイン領域を切断することで、軸索再生を制御することも示された。以上の結果から、軸索切断により細胞質に流入したカルシウムがCED-3を活性化し、それがCED-7のC端を切断することでPSの細胞外への提示を促し、TTR-11がそれに結合してインテグリンを活性化し、軸索再生が促進されることが示唆された。
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