研究課題
本研究では、花幹細胞の増殖と分化制御にかかわるリン酸化シグナル伝達から、エピジェネティック制御に至る分子機構を解明することを目指して研究を行ってきた。我々は、遺伝学的、生化学的解析によりKNUタンパク質によるWUS遺伝子の抑制状態の維持はポリコム因子の「導入」によりもたらされるとの知見を得た。さらにKNUの発現とヒストンの修飾H3K27me3状態の変化を花発生時期特異的にとらえた結果、H3K27me3の蓄積よりも先に転写レベルでの抑制が始まっていることを見いだした。すなわち、抑制的ヒストン修飾は抑制状態の維持に必要であるが、転写抑制の開始には他のメカニズムがあることが示唆された。そこで我々はKNUはWUSの活性化に必要な因子の結合阻害の機能を持つとの作業仮説のもと、WUS の既知の活性化因子であるSWI/SNF 複合体であるSPLAYED (SYD)の結合性を調べた。その結果、KNUの誘導後、即座にSYDの結合阻害が確認された。上記観察にもとづき、KNUによるWUSの二段階の転写抑制機構を提案するための論文を作成中である。さらに、KNUレポーターの花芽における早期で異所的な発現を指標とした遺伝学的解析から同定したリン酸化酵素の下流経路を解明するためにシグナルの誘導系を作成して、時間軸に沿ったリン酸化プロファイリングを行った。リン酸化レベルの変化するタンパク質のうち、エピジェネティックなヒストン修飾にかかわる因子に着目して機能解析を進めている。そのうちの1つのクロマチン制御因子は、セリン残基のリン酸化によりタンパク質相互作用が影響を受けることを見いだしている。現在、トランスジェニック植物を作成して、その生物学的な意義を解析中である。
1: 当初の計画以上に進展している
KNUとWUSとの関連性にかんしては、順調にデータが集まり、論文を投稿予定である。リン酸化タンパク質の解析においても、あるクロマチン因子の共役因子との結合性がリン酸化によって制御されているとの知見を得ており、研究は当初の計画以上に順調に推移している。
本年度は、 KNUプロモーターにおいてポリコム因子を導入して、転写レベルでの抑制をもたらすPRE配列をユビキタスな活性をもつプロモーターに結合して、バスタ薬剤耐性をもたらす個体を作出し、そのホモ個体を単離した。その種をEMS変異原処理して、バスタ耐性が回復するという指標により、ポリコム因子のリクルートおよび、活性化に関わる因子の突然変異体を同定する遺伝学的スクリーニングを開始している。この遺伝学的解析を推し進めると同時に、リン酸化プロファイリングにより得られた因子の生化学的、逆遺伝学的解析を推し進める。
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Annals of Botany
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