研究課題
本研究では、花幹細胞の増殖と分化制御にかかわるリン酸化シグナル伝達から、エピジェネティック制御に至る分子機構を解明することを目指して研究を行ってきた。我々は、遺伝学的、生化学的解析によりZinc Fingerタンパク質KNUによる幹細胞決定因子であるWUS遺伝子の抑制状態の維持はポリコム因子の「導入」によりもたらされるとの知見を得た。また、転写抑制の開始には、WUS の既知の活性化因子であるSWI/SNF 複合体であるSPLAYEDが、KNUにより即座に結合阻害されることを示し、KNUによるWUSの二段階の転写抑制機構として論文投稿した。さらに幹細胞群を取り囲む細胞群において発現して、花幹細胞の増殖抑制にかかわるSUPタンパク質はオーキシン合成酵素であるYUCCA遺伝子を発現抑制しており、その抑制には、ヒストン抑制的修飾マークであるH3K27me3を導入することにより成し遂げられることを示した (EMBO Journal 2018 in press)。さらに、KNUレポーターの花芽における早期で異所的な発現を指標とした遺伝学的解析から同定したリン酸化酵素の下流経路を解明するためにシグナルの誘導系を作成して、時間軸に沿ったリン酸化プロファイリングを行った。リン酸化レベルの変化するタンパク質のうち、エピジェネティックなヒストン修飾にかかわる因子に着目して機能解析を進めている。そのうちの1つのクロマチン制御因子TOPLESSは、セリン残基のリン酸化によりWUSタンパク質との相互作用が弱まることを確認した。それにより、リン酸化シグナルがWUS 遺伝子の自己制御能を変化させることによって、核内における遺伝子発現の恒常性を保っているとの有力な作業仮説の検証を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
SUPによるエピジェネティック制御を介した幹細胞の増殖抑制は、分子生物学のトップジャーナルのひとつであるEMBO Journalに受理され、in pressである。また、幹細胞制御の遺伝学的解析、CRABS CLAW転写因子による幹細胞の増殖抑制機構についての論文発表を行った。さらにKNUとWUSとの関連性にかんしては、論文を投稿中である。リン酸化タンパク質の解析においても、あるクロマチン因子の共役因子との結合性がリン酸化によって制御されているとの知見を得ており、近々論文投稿予定である
本年度は、WUSの花発生における転写抑制機構の論文をトップジャーナルにて公表することを第一目標とする。これまでに指摘されたin vitroにおける結合性の実験を補足していく。また、幹細胞の増殖と分化のホメオスタシス制御にかかわるリン酸化シグナルによってリン酸化状態の変化するTOPLESSタンパク質に着目して解析をすすめる。それらの遺伝学的、逆遺伝学的、生化学的解析、イメージング解析を推し進めることで、リン酸化シグナルから核内の遺伝子発現に至るまでの未知経路の解明の論文を行うためのデータをより確固としたものとすることを目指す。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 10件) 備考 (1件)
Plant Reproduction
巻: 31 ページ: 89-105
10.1007/s00497-017-0315-0
Frontiers in Plant Science, Plant Biotechnology
巻: 印刷中 ページ: -
EMBO Journal
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Methods in Molecular Biology
Nature Communications
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http://bsw3.naist.jp/ito/