研究課題
本研究では、リン酸化シグナル伝達から、エピジェネティック制御、ホルモン制御による花幹細胞の増殖と分化制御に至る分子機構を解明することを目指してきた。我々は、遺伝学的、生化学的解析によりKNUタンパク質によるWUS遺伝子の抑制にはポリコム因子の「導入」によりもたらされる抑制的ヒストン修飾H3K27me3が必要であるとの知見を得た。さらにH3K27me3の蓄積は抑制状態の維持に必要であるが、転写抑制の開始にはKNUによるSWI/SNF 複合体であるSPLAYED (SYD)の結合阻害が機能していることを示した。KNUタンパク質のWUS プロモーターへの結合性をin vitroアッセイやYeast-one hybridアッセイにより、KNUによるWUSの二段階の転写抑制機構をより確かなものとして、論文をPlant Cell(2019)にて発表した。さらに、リン酸化シグナルがWUS遺伝子の自己制御能を変化させることによって、核内における遺伝子発現の恒常性を保っているとの論文を作成している。また、花幹細胞の増殖抑制に機能するSUPはポリコム因子CLFと直接結合することで、オーキシン合成を抑制している。本内容を花幹細胞の増殖抑制におけるエピジェネティック機構を介したオーキシン制御の論文としてEMBO Journal(2018)にて発表した。さらにCRCによるクロマチンを介したオーキシン合成酵素の制御機構の論文をNature Communications(2018)にて発表した。ヒストンの脱メチル化酵素によるABAシグナルにおける新規フィードバック系を解明してPlant, Cell & Environment(2019)に発表した。また、関連論文をShort CommunicationsとしてPlant Signaling Behavior(2019)や花幹細胞の増殖抑制機構についてのレビュー(Xu et al., J of Experimental Botany 2019)に発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
花幹細胞制御におけるKNUとWUSとの関連性については、植物系のトップジャーナルであるThe Plant Cell (2019)にて報告した。また、CRCおよびSUPによるエピジェネティック制御を介した花幹細胞の増殖抑制機構は、それぞれNature Communications (2018)およびEMBO Journal(2018)において報告した。さらにリン酸化タンパク質の解析においても、あるクロマチン因子の共役因子との結合性がリン酸化を調節することで、自己活性化能を調節しているという新規作用機構に関しても最終的にまとめ上げる段階にある。その他、ABAシグナル系におけるヒストン脱メチル化酵素の働きを明らかにして、Plant, Cell & Environment (2019)にて報告した。
本年度は、幹細胞の増殖と分化のホメオスタシス制御にかかわるリン酸化シグナルによる新規制御機構の論文を公表することを第一目標とする。追実験の必要性に備えて、植物体を準備しておく。
新聞記事など 1.伊藤寿朗、日本経済新聞「花がめしべづくりを開始するためのDNAの折りたたみ構造変化を解明」奈良先端科学技術大学院大学 2018年12月12日アウトリーチ活動など 1.奈良先端大サイエンス塾 花のABCモデルを平易に解説した。2018年10月13日 2.奈良先端大オープンキャンパス 植物の花の形作りについて。2018年11月11日
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件)
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