H29年度では、西欧産ドメスティカス亜種由来のB6系統と日本産モロシヌス亜種由来のMSM系統の対立遺伝子間の発現量比に着目し、表現型多様性の基盤となる原因シス多型のスクリーニングを行った。特に生殖細胞と肝細胞に着目し、二系統間の発現差に寄与するシス因子を同定することができた。 B6とMSMのX染色体を置換したコンソミック系統では、全発現遺伝子の8.5%が発現低下し、うち22%がMSM系統由来のX染色体に連鎖する遺伝子であった。これは、X染色体連鎖遺伝子のシス多型が、発現低下に大きく寄与することを示している。この発現低下遺伝子群に含まれ、精子形成に重要なTaf7l遺伝子に注目し、エンハンサー内のシス多型を探索した。H3K4me1のChIP-seq解析により、Taf7l近傍に14箇所のエンハンサー候補領域を検出した。ES細胞を用いたルシフェラーゼアッセイにより、4箇所がエンハンサー活性を示し、その内の一つは、B6アレル特異的な活性を有していた。さらに、このエンハンサーに存在する一つのIn/delがB6特異的なエンハンサー活性を獲得するのに必須であることを明らかにした。これは、亜種特異的なエンハンサーが種分化に影響を与える可能性を示している。 脂質代謝に主要な役割を果たすPparg遺伝子は、肝臓においてB6とMSMで異なる発現レベルを示す。Ppargの発現に関与するエンハンサー配列を同定するため、ChIP-seq、ATAC-seq並びにパブリックデータベースを基にして候補領域をリストアップした。各候補配列をクローニングし、HepG2細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを行った結果、転写活性化能を有する2つの配列を同定することができた。この2箇所の配列に関しては、CRISPR/Cas9系を用いて、ノックアウトマウス系統を作製・樹立し、Ppargと関連遺伝子の発現解析を行った。
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