研究課題
本研究では、複数の脊椎動物種を用い、筋肉と骨格の前駆細胞の挙動と胚環境、その背景にある遺伝子発現や細胞間相互作用を比較し、筋・骨格系の進化過程を復元することを目指す。平成28年度は、頭頸部の筋系の進化に着目し、共通祖先における頭部中胚葉形成機構を探る目的で、円口類ヤツメウナギやトラザメの胚を用いた解析を進めた。頸部における中胚葉や神経系細胞の分布を分子マーカーにより解析し、それが鰓弓との位置関係においてどのような機能的・発生学的な連関をもつかを明らかにすべく試みた。頭部中胚葉由来の鰓弓筋と、体節が頭部内へ伸長して形成される筋(鰓下筋系など)に関し、後者は近傍にある鰓弓筋とは独立の分化制御を受けることを示した。また、遺伝子欠失個体の作成により、筋芽細胞に内在する、長距離伸展に必須な遺伝子機能の手がかりを得た。また、哺乳類の進化において横隔膜の獲得をもたらした発生学的基盤を解明するため、外側中胚葉の頭尾軸特異化に注目した研究も進めた。本研究チームによる以前の研究により、哺乳類系統における前肢の位置変化は非ホメオティックなもので、祖先動物で前肢筋(うち頭側部要素)の発生を制御していた位置情報が部分的に残り横隔膜の発生を導いた可能性が示されていたが、今回、鳥類、両生類との外群比較によりHoxc5がその位置情報に関連し、哺乳類にのみ見られる頚部尾端のHoxc5発現領域が祖先的前肢の位置を示し、それが筋前駆細胞の移動を許容すると予測した。事実、ニワトリ胚で、前肢芽基部のHoxc5発現領域をより頭側部に移植すると、頚部レベルの体節から筋前駆細胞(Pax3発現細胞)が異所的に誘導されることが確認され、外側中胚葉のうちHoxc5を発現する領域が筋前駆細胞の移動経路となることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度はナメクジウオを含め、多数の希少種の胚を用いて実験し、結果を比較検討することができた。また新規の研究機器を用いた実験・観察を効率的に進めることができた。非モデル動物における遺伝子機能阻害についても、足がかりとなる実験系を構築することができた。横隔膜の進化的起源に関する研究においては、外側中胚葉の頭尾方向のパターニングが横隔膜や前肢筋の筋前駆細胞の移動経路決定の要因の1つであるとの仮説に対して、ニワトリ胚を用いた予察的な移植実験によりこれを支持するデータを得られた。今後はこれをもとに遺伝子操作を含めた実験計画を立案、実施していくことになるが、本年度はそれに関連する論文を集め、準備を進めることができた。
平成29年度以降、1)頭部神経堤細胞の移動・分布パターンの進化、ならびに二次心臓領域中胚葉の広がりの観点から、鰓下筋原基の移動の変化を説明し、脊椎動物の頸部筋の進化の背景にある発生学的プロセスとパターンの変化過程を推測し、2)哺乳類横隔膜の進化の背景となったHox遺伝子の制御の変化を明らかにし、その形態発生学的意義を理解する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件) 図書 (4件) 備考 (2件)
Dev. Growth Diff.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Zool. Sci.
巻: 34 ページ: 1-4
10.2108/zs160203.
Zool. Lett.
巻: 2 ページ: 20
10.1186/s40851-016-0057-0.
J. Morphol.
巻: 277 ページ: 1146-1158
10.1002/jmor.20563.
巻: 33 ページ: 229-238
10.2108/zs150187.
巻: 33 ページ: 213-228
10.2108/zs150181.
Nature
巻: 532 ページ: 447-448
10.1038/nature17885.
http://www.riken.jp/research/labs/chief/evol_morphol/
http://www.cdb.riken.jp/emo/japanese/indexj.html