未開拓の新規ニッチへの進出は、新しい豊富な資源の利用を可能にし、その後の適応放散を誘導しうる。また、新規ニッチを利用可能にする形質が生殖隔離にも貢献する場合、祖先集団と新規集団の間で交雑率が低下し、多様性が維持されうる。しかし、新規ニッチへの進出の鍵となる形質の遺伝基盤について、実際の野外集団で解明された例は極めて少ない。本課題では、申請者がこれまで詳細に記載してきた日本産トゲウオにおいて、多様な淡水域に進出して表現型多様化を遂げた系統と淡水に進出できず均一な表現型にとどまった系統を利用して、その背景にある淡水餌資源の利用能力の違いの鍵となる遺伝基盤、及び、その鍵遺伝子と生殖隔離との関連性について、遺伝子操作、連鎖マッピング、集団ゲノミクス、半野外生態実験、配偶行動実験などを駆使して解明する。
本年度は、淡水実験池に太平洋イトヨと日本海イトヨの雑種を放流した。また、日本海イトヨと太平洋イトヨが同所に生息している交雑域において、遺伝子浸透の低下しているゲノム領域を特定し、不飽和脂肪酸の合成酵素のローカストの一致を検証した。
また、分類群を超えた共通性の検証として、淡水進出した淡水型トミヨと淡水進出しなかった汽水型トミヨ、ハゼやカジカなどについても不飽和脂肪酸の合成酵素を解析した。
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