研究課題/領域番号 |
15H02420
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 真 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80204494)
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研究分担者 |
畑 啓生 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (00510512)
奥山 雄大 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究員 (40522529)
川北 篤 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (80467399)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物食 / 寄主特異性 / コケ食 / シギアブ科 / コバネガ科 / 絶対送粉共生 / キノコバエ科 / 装飾花 |
研究実績の概要 |
植物食がいつ、どのような分類群で起源し、そして植物利用様式をいかに刷新しつつ多様化していったのかを明らかにするために、以下の3つのテーマに沿って、自然史・生態調査と分子系統解析、および植物の形態や化学物質が介在した植物と植食者のふるまい(防衛・誘引・解毒)等の解析を行った。 (1)食植性昆虫における植物食の起源:日本列島におけるコバネガ類の多様性と、各種の詳細な分布を探索したところ、赤石山脈から新属が、東北地方から数種の新種が見いだされ、それらを新属・新種記載した。さらに、シリブトガガンボ類の多様性と生態に関する調査を行った。シリブトガガンボの幼虫がコケを摂食する際、無性芽の散布に貢献することを見いだした。 (2)食植性昆虫の植物利用様式の変遷と多様化過程:潜葉虫昆虫の潜孔葉を収集し、特にハモグリバエ科の多様な潜孔様式を見いだしている。また、葉状苔類とツノゴケ類に潜葉するハモグリバエ類の多様性とそれらの寄主特異性の高さを調査した。また、チャルメルソウ類を送粉するキノコバエ類が苔類食でかつ寄主特異性も高いことを明らかにした。 (3)植物と食植性昆虫の間に成立した共生関係(特に送粉共生と栽培共生)の起源:コミカンソウ科の絶対送粉共生に関するこれまでの研究成果をまとめ、英文書籍『Obligate pollination mutualism』としてSpringerから出版した。さらに、アジサイ科・レンプクソウ科における装飾花の進化とその送粉者誘引効果、コウヤミズキの送粉様式と共送粉者としてのカワゲラ、花粉噴出行動を持つミヤマハハソの送粉様式、ラオス山地林における送粉群集のデータをまとめ、その内容の論文執筆を行った。 以上の研究に加えて、潮間帯の藻類食者の調査をしたところ、ニシキウズ科ハナザラが、ウニの巣穴に住み込み、そこで付着藻類食を行っていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
陸上植物の最も祖先的な種群であるコケ植物(蘚類、苔類、ツノゴケ類)の食植者の存在と、それらの多様性や生態が少しずつ明らかになってきた。本研究は、コケ食昆虫に関する多くの新発見をもたらし、それらは数本の論文となって国際誌に発表されている。シギアブ科シトネアブ亜科の3つの属の種がすべてコケ食者であることが明らかになったばかりでなく、日本産のコバネガ類においても、新たに新属と数種の新種を記載した。さらに、キノコバエ科においても、一部がコケ食者であり、しかもそれらの多くが高い寄主特異性を持つことが明らかになった。コケ食者に関する我々の知見は、世界で最も豊富かつ新規性の高いものになっている。 潜葉虫の地道な採集・飼育を続けてきた結果、潜葉虫の成虫標本と幼虫の潜孔葉のさく葉標本は、きわめて充実したものになっている。これらの標本は、潜葉虫と潜孔様式の多様性の網羅的記載・解析の足がかりになると考えられる。 コミカンソウ科で発見された絶対送粉共生系は、食植者(ここでは種子食性のホソガ)が送粉者になるという驚くべき進化の実例であり、植物-食植者相互作用の最も顕著な例である。このコミカンソウ科の絶対送粉共生に関するこれまでの研究成果をまとめ、Springerより『Obligate pollination mutualism』として出版した。この共生系の発見は我々の最も独創的な業績の一つで、数多く引用されて、また生態学の教科書にも引用された。
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今後の研究の推進方策 |
コケ食の昆虫として、シギアブ科とコバネガ科、キノコバエ科に加えて、シリブトガガンボ科、ハバチ科の多様性・系統・生態に関する調査を進める。コケ食のキノコバエの網羅的な探索を行ない、それらの多様性の把握と系統関係の推定と寄主植物利用の変遷過程の解析を行う。コケ食のキノコバエ類がチャルメルソウ類の送粉者になっていることから、幼虫のコケ食と成虫の訪花性との生態学的・進化学的関係性についても検討する。シリブトガガンボ科は、一部に被子植物食の種が知られるものの、その大半はコケ食であることがわかってきた。シリブトガガンボ科のさまざまな種の生活史の解明と系統推定を行ない、寄主植物利用の変遷について引き続き解析を行う。祖先的な膜翅目は植物食であり、最も祖先的なナギナタハバチは裸子植物食で、派生的なハバチ科にはシダ食の種も数多く見られる。申請者はコケ食のハバチ上科を発見しており、それを含めた食植性ハバチ類の系統解析と植物利用様式の変遷過程を分析する。 潜葉虫の多様性、および潜孔様式の多様性について、網羅的な集大成に着手する。特にコケに潜葉するハモグリバエ科と、潜葉性ハバチ類の分類・系統をまず行いたい。 絶対送粉共生系に関しては、いまだ未解決の問題が残っている。膨大なコミカンソウ科植物の中で、未だに送粉様式が不明の種群がある。それらの送粉様式を明らかにするとともに、コミカンソウ科の送粉様式の多様な展開を俯瞰する。また、ハナホソガに寄生するコマユバチの存在がある。これらのコマユバチの多様性と、送粉共生系に与える影響、さらに、寄生性から植物食への転換についても調査を進める。 潮間帯の藻食者でありながら、特異な住み込み共生をしたり、特異な環境で生活するものが発見された。それらの藻食者の形態・行動・生態の適応進化の分析を加える。
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