研究課題/領域番号 |
15H02438
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
信濃 卓郎 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター 農業放射線研究センター, センター長 (20235542)
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研究分担者 |
久保 堅司 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター 農業放射線研究センター, 主任研究員 (20446470)
尹 永根 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主任研究員(定常) (50609708)
俵谷 圭太郎 山形大学, 農学部, 教授 (70179919)
松波 寿弥 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター 農業放射線研究センター, 上級研究員 (80504068)
海野 佑介 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 任期付研究員 (00522020)
齋藤 隆 福島県農業総合センター, 浜地域農業再生研究センター, 主任研究員 (30504071)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 根圏 / マメ科 / イメージング / カリウム / メタボローム |
研究実績の概要 |
本研究は植物による積極的な土壌成分への働きかけが、微量元素特に放射性セシウムの動態に与える影響を明らかにするために行われている。特にマメ科作物においては土壌中の放射性セシウムが植物体へ移行しやすいことが知られており、そのメカニズムに有機物に結合している放射性セシウムが植物による有機物の分解に伴って移動していると考えられる。この現象を明らかにするために、根圏のイメージング技術を開発し、これを用いて根圏土壌の微生物機能を明らかにすることを目的の一つとして研究開発を進めている。また、植物による放射性セシウム吸収が低カリウム条件で誘引されるが、このことは根のカリウムトランスポーターにおけるカリウムとセシウムの拮抗作用にとどまらず、養分欠乏による積極的な土壌成分の利用も関与していると仮定している。そこで、カリウムが欠乏する条件下でどのような分泌物が生じているのかを明らかにするためにメタボローム解析手法を導入している。根からの分泌物は植物種によって大きく違いがあることが知られており、圃場において複数の作物種を栽培し、その根の特性と実際の放射性セシウムの吸収能についての関係解析を進めている。これらのメカニズム解明と同時に現地では対策技術の喫緊の現場への普及が求められており、主要作物である大豆の移行抑制対策の高度化を進めるために特に根圏の栄養的観点からの栽培管理技術の開発を進めると同時に、より簡便な手法で高い移行抑制効果を上げる技術開発に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究では大豆に着目して、根圏の可視化を進めることにより正確な位置情報に基づく解析を行うために、11Cを同化させて根からの分泌場所で分けることを試みたが、分泌物が根の濃度に比べて著しく薄いなどの問題が明らかになった。そこで次年度においては植物をルーピンに変更し、さらに根と土壌が直接接しないように栽培環境を工夫することで大きく改善した。この手法により土壌を植物の分泌物が強く影響を与えている根圏土壌と非根圏土壌を明瞭に分離することが可能となり、それぞれの領域の土壌を採取して、その土壌微生物群衆構造の解析に着手した。11Cを生成させるにはサイクロトロンのランタイムが必須であり、稼動できる場合には複数分野の研究者が集合して研究を進めている。 根分泌物のメタボローム解析にはCE-MSを活用して分析を行っており、これまでにカリウム欠乏及び過剰の際に根から分泌される複数の特有な化合物の同定に至っている。 圃場での試験からは複数の作物の栽培から特にルーピンにおける放射性セシウム吸収能が高いことが明らかになった。根の解析を行い、この特性は根長あたりの吸収能が特に高いことが示された。同様にピーナッツにおいても根への吸収能が高かったが、ピーナッツの場合は根から地上部への移行が著しく抑制されており、これまでに知られていないセシウムの移行抑制に関わる仕組みの存在が示唆された。また、大豆は稲に比較して生育後半の放射性セシウム吸収能が高いことが明らかになっており、これに対応させるための施肥管理手法、栽培管理手法の構築に取り組んでいる。現在行われている播種前の追加のカリ施肥では生育後半の吸収を十分抑制できない可能性や、必要以上の量を投入しなければ効果が発現できないことも示唆される。プライミング効果や緩効性肥料による抑制効果についての検証を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は根圏の機能解析の研究を集中して進展させる。これまでに開発した根分泌物の影響を直接受けている根圏土壌と非根圏土壌を区別化する手法を用いて、その環境での土壌微生物の機能解析を行う。そのため、可視化の試験の終了直後に土壌を細分化して採取し、土壌微生物DNA, RNAを採取する。同時にそれらの領域の代謝産物(特に有機酸)をターゲットとして土壌中から回収して測定することを試みるこれによって、実際の根圏土壌において微生物機能の中でも特に有機物分解能がどのように働くのかを極めて明確に示すことが可能になる。根分泌物のメタボローム解析に関しては塩類除去に最適な手法を用いてカチオン、アニオンを対象とした解析を進め、さらにその生理的な役割についての考察を行う。 圃場においての試験ではこれまでの試験からその高い放射性セシウム吸収能を示す、ルーピンに関して根の機能からの解析を定量的に行うことを試みる。また、生育に応じた放射性セシウムの吸収パターンに基づく新たな肥料の開発を進めており、これを利用した効果的な放射性セシウムの移行抑制技術を確立する。
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