研究課題
天然物、特に微生物代謝産物から、抗生物質、抗がん剤、免疫抑制剤など多くの医薬品が開発されてきた。近年、合成化合物が創薬の探索源として用いられることが多いが、生物活性の強さ、構造多様性では天然物が優れている。本研究では、我々が構築してきた新世代ケミカルバイオロジー研究基盤を利用して新規生物活性物質の創出を目指している。今年度は、パスウェイ工学、およびNPPlotデータベースを駆使し、新規微生物代謝産物の取得に取り組んだ。リベロマイシン、テルペンドール、フミトレモルジン等の有用代謝物生合成経路の改変により、これまで生物活性評価の対象とされてこなかった生合成中間体などの関連化合物を収集した。さらには、バーティシラクタムやフサリセチン、テヌアゾン酸など、今後の有用代謝産物探索に資する新規生合成遺伝子クラスターを発見した。NPPlotデータベースの活用により、迅速かつ効率的な新規化合物探索が可能となり、当研究室が保有する有用代謝物生産菌株の培養物の中から、新規オキシインドール類の取得に成功している。リベロマイシン生産を制御する転写因子ネットワークの解析により、遺伝子クラスターに含まれる転写因子の中で主要な役割を担うマスター制御因子を同定した。MorphoBase拡張の一環として、真菌版MorphoBase構築に取り組んだ。本課題で取得した新規化合物の生物活性評価を行い、高次評価に資する候補化合物を見出した。
2: おおむね順調に進展している
I. 新規微生物代謝産物の取得(1)パスウェイ工学による代謝産物取得:これまで生合成機構解析に用いてきたリベロマイシン生産菌、テルペンドール生産菌、およびフミトレモルジン生産菌に由来する遺伝子破壊株において蓄積する中間産物とその関連化合物30種類を収集した。さらには、バーティシラクタムやフサリセチン、テヌアゾン酸など、NPPlotデータベースの活用等により見出した有用微生物代謝物の生合成遺伝子クラスターの同定に成功した。(2)バイオメディエーター探索系構築:リベロマイシン生合成遺伝子クラスターを制御する転写因子ネットワーク解明を進め、生産調節に中心的に機能する経路特異的制御遺伝子を同定した。その支配下にある遺伝子プロモーターを用いたGUSレポーターアッセイ系を構築した。(3)NPPlotデータベースを活用した新規化合物取得:我々が保有する有用代謝物生産菌株の培養物を分析しNPPlotデータベースと照合することで、新規化合物探索を行った。その結果、新規オキシインドール類の取得に成功した。II. 生物活性物質の探索(4)MorphoBaseの拡張:MorphoBaseの手法を真菌(イネいもち病菌Magnaporthe oryzaeと深在性真菌症原因菌Aspergillus fumigatus)へ適用し、既存抗真菌薬が誘導する形態変化を収集し、真菌版MorphoBaseの構築に取り組んだ。また近年報告のあった新しい分子標的薬を用いて、データベースの拡充を行った。(5)生物活性評価:本課題で取得された新規化合物について、様々ながん細胞や各種真菌に対する増殖阻害活性、形態変化誘導活性の評価を行った。特徴的な化合物については、MorphoBaseやChemProteoBaseによる評価に加え、分化誘導活性、抗細菌活性や抗原虫活性などについても検討を行った。
前年度に得られた成果を基に、今年度も緊密に連携し以下の研究課題を推進する。I. 新規微生物代謝産物の取得(1)NPPlotデータベースを活用した新規化合物取得:前年度に引き続き、NPPlotデータベースを活用した新規化合物探索に取り組む。(2)新規化合物生合成経路のパスウェイ工学:前年度までの解析により見出した新規化合物の生産菌ゲノム解読を行い、生合成遺伝子クラスターを同定する。遺伝子破壊実験を行うことで生合成経路の全容を明らかにするとともに、中間産物やシャント代謝物を含め関連化合物の網羅的な収集を試みる。(3)制御系改変による遺伝子クラスター活性化:前年度の解析で見出した、リベロマイシン生産における主要制御遺伝子の活性化により高生産を試みる。それに加え、上の項目の新規遺伝子クラスター内に経路特異的制御遺伝子が含まれる場合には、それらを改変することで、目的化合物の安定的高生産を図る。(4)バイオメディエーターによる遺伝子クラスター活性化:前年度構築を行ったアッセイ系を用い、リベロマイシン生合成遺伝子の発現を活性化する小分子化合物をスクリーニングする。II. 生物活性物質の探索(5)MorphoBaseを用いたハイコンテントスクリーニング:前年度構築した真菌版MorphoBaseを用い、新規作用機序を有する抗真菌物質の探索を行う。(6)ChemProteoBaseによる作用機序予測:前年度取得した化合物の中から興味深い生物活性を示すものをいくつか選定し、MorphoBaseやChemProteoBaseなどの高次評価に供し、既存薬とは異なる標的を持つことが期待される化合物を絞り込む。既存のクレードに分類された化合物でも化学構造や活性の強さで優位性があれば、生化学的にその効果を検証し、医薬・農薬シーズとしての可能性を検討する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 10件、 査読あり 18件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (46件) (うち国際学会 17件、 招待講演 9件)
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