研究課題
本研究では、完全養殖系を有するマサバを材料として、ゲノム編集技術による遺伝子ノックアウト(KO)を用いた海産魚における育種基盤技術を開発することを目的とする。本年度はレプチン受容体(LepR)遺伝子破壊を目的として、1種のTALENおよび2種のガイドRNAを作製し、マサバ受精卵にインジェクションを行った。1日胚を用いてHMA解析した結果、破壊効率は10%以下と低く、また、インジェクションした卵も数日以内に全て死亡した。本年度は別途、共喰い等の攻撃性を低減させることを目的として、アルギニンバソトシン受容体(AVTR-Vla)遺伝子をTALENを用いてKOすることを試みた。その結果、AVTR-V1a遺伝子を破壊したF0世代マサバの作出に成功した。1個体当たりの変異細胞出現率は30~100%で、現在変異導入個体34尾を育成中である。さらに、仔稚魚期における攻撃性を定量評価するためのバイオイメージング解析プログラムを開発し、20~40日齢の野生型の仔稚魚を対象にして動画撮影を行い、解析に供した。親魚を不妊化する目的で、当初、マサバを用いたGnRH遺伝子破壊を計画していたが、GnRH遺伝子を破壊したメダカやゼブラフィッシュでは不妊化しないという報告が出されたため、対象を黄体形成ホルモン(LH)遺伝子に変更した。さらに研究期間の残りを考慮し、環境調節により周年にわたり産卵し、孵化後半年以内で成熟するカタクチイワシを対象として、カタクチイワシのLH破壊用のTALEN2種、ガイドRNA3種を設計した。
3: やや遅れている
環境調節によるマサバ受精卵の長期採卵法を開発し、2月下旬から6月上旬にかけての受精卵入手が可能となったが、卵質が安定せず、そのときのロットによりゲノム編集による遺伝子破壊を行った後、成育せず死亡する例が多く認められた。複数回試みたが、当初計画していたレプチン受容体(LepR)破壊実験では、KO個体が得られなかった。親魚を不妊化する目的で、当初、マサバを用いたGnRH遺伝子破壊を計画していたが、GnRH遺伝子を破壊したメダカやゼブラフィッシュでは妊性が保持されるという報告が出されたため、破壊対象を黄体形成ホルモン(LH)遺伝子に変更した。さらに研究期間の残りを考慮し、環境調節により周年にわたり産卵し、孵化後半年以内で成熟するカタクチイワシを対象とした。一般に魚類では、濾胞刺激ホルモン(FSH)が卵黄形成を制御、促進し、LHは卵黄形成終了後の卵成熟を直接促進する。LHが破壊された個体では、卵黄形成は進行するが、卵成熟が起こらないことが期待され、そのような個体にLH作用のあるhCG(ヒト絨毛性生殖腺刺激ホルモン)を投与することにより卵成熟が誘導できる。オスでもLHが破壊された個体では精子形成が進行するものの、排精が起こらないため、hCG投与により運動能をもつ精子が得られることが期待される。一方、共喰い等の攻撃性を低減させることを目的とした、アルギニンバソトシン受容体(AVTR-Vla)遺伝子を破壊したF0世代マサバ親魚34尾の作出に成功した。30年度の春に成熟予定であるので、30年度中にF1世代が得られる。仔稚魚期における攻撃性を定量評価するためのバイオイメージング解析プログラムも開発したので、30年度内に形質評価も出来ることが期待される。
Ⅰ.マサバLepR遺伝子破壊実験: 本年度は既に作製してある2種のTALENおよび3種のガイドRNAを用いて、マサバ受精卵にインジェクションし、それらの遺伝子破壊効率、1個体当たりの変異細胞出現率を評価する。得られる受精卵の卵質により生残率が大きく変化するので、高い生残率が得られるまで複数回のインジェクション実験を行う。変異導入率が高かった場合、仔稚魚を育成した後、フレームシフトを起こしている個体をスクリーニングし、親魚まで育てる。F0世代ではあるが、LepR遺伝子が破壊された個体の形質を、体型、重量、肥満度等で評価する。Ⅱ.AVTR-V1a遺伝子を破壊したマサバF1世代の作出と形質評価: 29年度、攻撃性に関連するAVTR-V1a遺伝子を破壊したF0世代マサバを親魚まで育成した。本年度は、これら親魚を用いてF1世代を作出し、仔稚魚期における攻撃性を、新たに開発した画像解析プログラムを用いて定量評価する。Ⅲ.LH遺伝子を破壊したカタクチイワシF0世代の作出: 親魚を不妊化する目的で、当初、マサバを用いたGnRH遺伝子破壊を計画していたが、GnRH遺伝子を破壊したメダカやゼブラフィッシュでは不妊化しないという報告が出されたため、対象を黄体形成ホルモン(LH)遺伝子に変更する。さらに研究期間の残りを考慮し、環境調節により周年にわたり産卵し、孵化後半年以内で成熟するカタクチイワシを対象とする。カタクチイワシのLH破壊用のTALEN2種、ガイドRNA3種は既に設計済みである。
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