研究課題/領域番号 |
15H02475
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堀内 基広 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (30219216)
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研究分担者 |
小林 篤史 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (50431507)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プリオン / ミクログリア / アストロサイト / 自然免疫 / 次世代シークエンサー |
研究実績の概要 |
本課題は、神経細胞 (ニューロン) -グリア細胞のクロストークに焦点をあてた解析を進め、プリオン病における神経変性機構の分子機構の解明に迫ることを目的としている。平成27年度は、プリオン感染マウスからアストロサイトとミクログリアを分離して、RNA-seqにより網羅的遺伝子発現解析を行った。 プリオンObihiro株、Chandler株接種マウスから、接種後60, 90, 120, および145日(dpi)に脳を採材し、抗CD11b抗体によりミクログリアを、抗ACSA-2抗体によりアストロサイトを回収した。回収したグリア細胞からtotal RNAを抽出し、次世代シークエンサーIon Protonを用いてRNA-Seqを行った。得られた結果はStrand NGSおよびIPAにより解析した。 主成分解析および階層的クラスタリング解析では、ミクログリアおよびアストロサイトは異なる遺伝子発現プロファイルを示したことから、各グリア細胞は純度高く分離されていることが確認できた。ミクログリアおよびアストロサイトに特異的に発現する607遺伝子および313遺伝子を同定し、さらにその中から細胞外に分泌される分子をコードする49および38遺伝子を選定し、Gene Ontology解析を行ったが、特徴的な生物学的機能を示唆するに至らなかった。そこで、ミクログリア、あるいはアストロサイトでより高く発現する遺伝子を標的として解析したことろ、2つのプリオン株接種マウスで共通に、ミクログリアで感染初期 (60dpi) から末期 (145 dpi) まで発現上昇を示す遺伝子が3個見つかった。その1つであるCXCL16はアストロサイトに作用してアストロサイトから神経保護的に働く因子を放出させることが知られていることから、次年度以降CXCL16のプリオン病の病態機序への関与を解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2種のプリオン株を用いて、接種後60, 90, 120, および145日(dpi)のマウスの脳からミクログリアとアストロサイトを分離して、各タイムポイントn=2で次世代シークエンサーによるRNA-seqの生データを全て取得した。主成分解析および階層的クラスタリング解析により、ミクログリアとアストロサイトが精度高く分離できていることが確認できた。膨大なデーター量で解析には時間を要するが、分泌タンパクに絞った解析(Secretome)、どちらかの細胞でより高く発現する遺伝子を標的にした解析等から、ミクログリアは感染初期には細胞の生残を支持する活性化状態を示すが、感染後期になると細胞死を促進させる活性化状態にシフトする傾向が認められている。また、感染初期から発現が変動する遺伝子の中で、特に注目すべき遺伝子として、CXCL16を見出した。データーが膨大でバイオインフォマティクスに相当の時間を要するため、今後も解析を継続することになるが、1)当初目的としていたミクログリアとアストロサイトのRNA-seqのデータを取得し終えたこと、2)途中経過ではあるが、ミクログリアの活性化状態が変化する傾向を見出せたこと、また、3)これまでにプリオン病の病態に関与することが知られていないCXCL16が感染初期からニューロン-グリアネットワークに関与する可能性を見出したこと、など、平成27年度は着実な進展があった。従って本研究課題は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
グリア細胞の活性化状態を解析するためのRNA-seqの生データは質の高いものが取得できたことから、平成28年度以降もStrand NGSおよびIPAを用いて、様々な条件設定を行い解析を継続する。特にニューロンとグリアのクロストークを解析する視点から、グリア細胞から分泌されるタンパク質をコードする遺伝子の発現解析(Secretome)および膜表面に発現するタンパク質をコードする遺伝子の発現解析(Sensome)は重点的に進める。 本年度の解析から特長的な発現変動を示した遺伝子については、RT-PCRによりその発現変化を検証する。また、CXCL16については、CXCL16とそのレセプターであるCXCR6の発現を凍結切片の蛍光抗体法により解析する。 グリア細胞およびグリア細胞が分泌する液性因子の、プリオン感染細胞への影響を調べるために、マウス初代神経培養細胞にプリオンを接種してプリオン感染初代神経培養細胞を作製し、そこに、プリオン感染マウス脳の抽出液を添加、あるいはプリオン感染マウス脳から分離したミクログリアあるいはアストロサイトを共培養して以下の項目について神経細胞の変化を調べる。1) アポトーシスの有無:蛍光tunnel染色、および開裂caspase-3染色により調べる。2) 神経細胞の形態変化:EGFPの蛍光を指標に、蛍光顕微鏡によるタイムラプス解析により調べる 。3) 神経細胞活性の解析:Synaptophysin, SNAP-25, PSD-95などのシナプスタンパク質や、MAP2などの神経細胞マーカー分子の発現量と分布を調べる。4) 小胞体ストレスの解析:Grp78, Grp58など小胞体ストレスマーカー分子の発現量をイムノブロットにより解析する。5) ミトコンドリア機能の解析:ミトコンドリアの形態と膜電位の変化を調べる。
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