研究実績の概要 |
平成29年度中にアストロサイト(AS)網羅的発現解析の結果から、神経保護的ASで発現が亢進するSTAT3経路と神経傷害的ASで亢進するNFk-b経路の両方が活性化していることを明らかにした。STAT3が調節する遺伝子のうち、神経保護的な作用を有する、Thbs1, Bcl3, Timp1, Serpina3nの発現が病気の進行とともに上昇していたことから、ASは神経保護的な機能を発揮する可能性が示唆された。そこで、両経路の活性化状態のバランスを解析するために、プリオン感染マウス脳内ASを免疫磁気細胞分離法により回収しSTAT3とNFk-bのリン酸化状態を調べたが、感染および非感染マウスで顕著な差を検出できなかった。脳内ASは病態を反映していることが期待される一方で、活性化状態の異なる細胞集団である。そこでin vitroでプリオン感染による活性化状態を模倣するASを得るために、初代培養ASをプリオン感染マウス脳抽出液で刺激して活性化状態を調べたところ、Serpina3nなどプリオン感染マウス脳のASで発現上昇する遺伝子の発現が亢進していたことから、in vitroで誘導する活性化ASの使用を検討する。 平成29年度にプリオン感染マウスの視床背外側の神経細胞では、ATF3-Chop-Chac1経路の活性化が認められERストレスが生じていること見いだした。そこで神経細胞でプリオンが増殖することでERストレスが生じるかを、視床由来初代神経培養細胞を用いて解析した。プリオンが感染した視床由来初代神経細胞では、シナプスタンパク質の発現の低下などの異常が軽度に認められるが、ATF3の発現をはじめ、ERストレスのマーカーとなるリン酸化PERKの上昇が認められなかった。従って、神経細胞におけるERストレスの誘発には、活性化ミクログリアあるいはASなど、神経細胞以外の因子の関与が示唆された。
|