研究課題/領域番号 |
15H02478
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田中 あかね 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80418673)
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研究分担者 |
古市 達哉 岩手大学, 農学部, 教授 (30392103)
永岡 謙太郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60376564)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 診断・検査 / 肥満細胞腫 |
研究実績の概要 |
肥満細胞腫への投与が想定される化学療法剤の中で、使用頻度が高いグルココルチコイドに関して、投与の適切性を知るためのコンパニオン診断法につながる基礎研究を遂行した。様々なイヌの肥満細胞腫から樹立した培養細胞株のグルココルチコイド感受性は、細胞株によって異なっている。感受性の違いを引き起こす原因を調べるために、グルココルチコイドの受容体の遺伝子配列およひタンパク質発現の解析を行った。また、薬物排出ポンプ分子の遺伝子変異やタンパク質発現を解析した。グルココルチコイド受容体に関して、機能喪失あるいは低下を引き起こすような遺伝子変異は検出されなかった。また薬物排出ポンプ分子の機能や発現の亢進も認められなかった。一方で、グルココルチコイド受容体のタンパク質発現量には細胞株による相違が認められた。このことから、グルココルチコイド受容体の発現状態が重要な指標となることが明らかとなった。また、肥満細胞腫に対する分子標的薬としてよく使用されているチロシンキナーゼ阻害剤に対する薬剤耐性の出現も問題となっている。そこで、低濃度のチロシンキナーゼ阻害剤に暴露しながら徐々に選抜した薬剤耐性肥満細胞腫細胞株を作成し、KIT遺伝子の変異や薬剤耐性SNPの解析を実施している。循環がん細胞の検出しては、腫瘍移植マウスモデルを用いて、1/10000の血中肥満細胞腫細胞が検出できる精度を得た。前年度からの継続研究として、肥満細胞腫細胞における小胞体ストレス応答の変化を調べた。肥満細胞では活性化によりIRE1αの活性が亢進し、その標的であるXBP1u mRNAのスプライシングが誘導された。この時IRE1αの活性を阻害剤により抑制したところ、肥満細胞の活性化が起こらなくなった。これらの結果は小胞体ストレス応答関連分子がマスト細胞の活性化にも関与し、脱顆粒制御の標的分子としても有効な可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の予定であった項目のうち、グルココルチコイド感受性に関する研究については、十分な成果が得られ、国際共同研究として学術論文を投稿中である。また、循環がん細胞の検出に関する研究も予定通りに進捗し、投稿学術論文を取りまとめている最中である。とくに前年度から進めてきた小胞体ストレスに関する研究においては、肥満細胞の活性化を制御する新たな制御機構を見いだすことができ、創薬につながる知見として特許申請を検討している。一方で、薬物代謝酵素に関する研究はやや遅れており、基礎データの取得にとどまっている。これらを総合して上記の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
1)化学療法剤選択指標を決定する方法開発の基礎的研究として、臨床現場で実施可能な針生検サンプルからの検出系を模擬し、担がんマウスからの生検サンプルを用いてKIT受容体の自己リン酸化の検出、細胞外及び膜近傍ドメインの変異の存在を示すKIT二量体化の評価、機能的グルココルチコイド受容体タンパク質発現の検出、解糖系亢進の評価、小胞体ストレス応答性の検出を実施、得られたデータを各細胞株の薬剤反応性と比較する。また、実際の肥満細胞腫症例から得られたサンプルを検査系に適用し、コンパニオン診断結果と、実際の治療反応性との相関性を確認する。
2)新たの知見を得ている肥満細胞における小胞体ストレス応答の研究を深化させる。すなわち、肥満細胞の活性化や免疫学的刺激、あるいは腫瘍性増殖における小胞体ストレス応答因子の変化を解析し、阻害剤はサイレンシング法による制御によって細胞の動態がどのように変化するのかを解析する。また、様々な生理的刺激や化合物処理によりカルシウムチャネル分子であるOraiやSTIMの局在あるいは発現がどのように変化するのか、それによってカルシウム流入がどのように就職を受けるのかを解析する。これらの研究から小胞体ストレス応答関連分子が肥満細胞の活性化や増殖にも関与する証拠が得られれば、脱顆粒制御や増殖抑制の標的分子としても有効で、創薬のターゲットとなりうる。
3)循環がん細胞の検出しては、腫瘍移植マウスモデルを用いて、in vivoにおいても高精度に血中肥満細胞腫細胞を検出できるシステムが得られているが、動物臨床における適用を考慮して、外科手術後の腫瘍の再発や転移を想定したモデルを作出し、循環がん細胞の出現と病勢悪化の相関性を検証する。
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