研究課題
平成29年度は、新規の分子生物学的メカニズムに焦点を当て、KIT変異を有する、あるいは有さない肥満細胞腫細胞の増殖や脱分化機構を解析した。とくに、小胞体ストレス応答における肥満細胞の反応性が、正常及び腫瘍化した肥満細胞でどのように変動するかについて検証を進め、細胞の活性化が誘導された時に起こる小胞体膜状での分子生物学的変化を検出することができた。また、腫瘍化した肥満細胞の高感度の検出系として、1) KIT受容体の自己リン酸化の検出、2)細胞外及び膜近傍ドメインの変異の存在を示すKIT二量体化の評価、3)機能的GR発現の遺伝子およびタンパク質レベルでの検出、4)5アミノレブリン酸取り込み能のフローサイトメトリー解析、5)小胞体ストレス応答性のリアルタイムPCR法による検出系確立の基礎となる研究を実施した。さらに、実際の肥満細胞腫症例から得られた血液サンプルを検査系に適用し、特にフローサイトメトリー法を用いた循環がん細胞検出の予備検討を行い、肉眼的に再発が確認される2ヶ月ほど前から末梢血中のKIT陽性細胞数が増加するというデータを検証することができた。これをもとに臨床的な再発や転移の有無と循環がん細胞検出の相関性を引き続き評価している。薬物への反応性の評価 解析としては、分子標的治療薬への薬物感受性の低下の原因となる新たな遺伝子変異の追加や一塩基多型(SNPs)の存在を検証した。また、グルココルチコイド耐性の原因として、機能的グルココルチコイド受容体のタンパク質レベルでの発現異常を確認することができた。今後の解析材料として、チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブに対して 感受性を示す肥満細胞腫細胞株を少量のイイマチニブを添加して継続的に培養することでイマチニブに耐性を示す肥満細胞腫株を数腫作出することができた。
2: おおむね順調に進展している
肥満細胞を用いた分子生物学的な解析は順調に進んでおり、小胞体ストレス応答や低酸素応答など、これまでの肥満細胞研究では解明されていなかった新たな細胞増殖や活性化の機構を明らかにしつつある。
今年度は、新たに解明することができた肥満細胞の低酸素応答性や小胞体ストレス応答に関する学術論文を完成させ、国際的学術雑誌に投稿するとともに国際学会での発表を予定している。また、引き続き臨床サンプルの提供を各方面に呼びかけ、特に再発や転移の早期発見につながる検査・診断系を確立したい。さらに、治療に汎用されるグルココルチコイドやイマチニブに対する薬剤耐性の発現メカニズムを、遺伝子およびタンパク質の両面から解析していきたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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