研究課題
ハプロ不全として定義されている優性遺伝病の発症機序を明らかにするために、マルファン症候群モデル動物であるヘテロFibrillin 1遺伝子(FBN1)変異ブタを作出し、表現型(病態)の解析を実施した。得られた解析結果は原著論文(Umeyama et al.,2016 Sci Rep. 6:24413)として発表した。続いて、正常FBN1と変異FBN1のそれぞれのプロモーター領域のメチル化状態の確認を実現するため、FBN1変異ブタとは異なるSNPをFBN1プロモーターに持つミニブタを特定した。このブタを交配に用いて、正常FBN1アリルと変異FBN1アリルを、FBN1プロモーターCpG shore内のSNPを指標に判別できるヘテロ変異個体を得た。さらに、FBN1プロモーターCpG shoreでの細胞種特異的DNAメチル化およびそのゆらぎの確立時期を特定する目的で、生殖細胞および初期発生胚でのDNAメチル化状態を検討した。その結果、卵での高メチル化が受精後の初期発生過程で初期化による脱メチル化を受け、その後の器官形成期に向けて再メチル化が亢進することが明らかになった。これらの本年度成果と昨年度の成体組織の解析結果を統合し、原著論文(Arai et al., 2017 J Reprod Dev, in press)として発表した。また、プロモーターCpG shore内にアリルを区別できるSNPを持つミニブタとの交配から作製されたFBN1ヘテロ欠損ブタの新生仔尾部より線維芽細胞を樹立し、次年度の正常・変異アリルを区別したDNAメチル化解析のための基盤構築に成功した。
2: おおむね順調に進展している
ヘテロFBN1変異ブタを作出後、その表現型(病態)の基礎データを得る事に成功し、原著論文にまとめた。続いて、正常FBN1アリルと変異FBN1アリルとの識別が可能なヘテロ変異個体が得られたことは、来年度計画への準備が整ったことを意味する。従って、当初の計画通り研究は進んでいると考えている。FBN1プロモーターCpG shoreでの細胞種特異的DNAメチル化状態の開始時期を同定し、ゆらぎの起きる時期を特定するための検討を終了した。さらにゆらぎの起きる時期を特定するための正常・変異アリルを区別したDNAメチル化解析が可能な新生仔線維芽細胞の樹立にも成功したことから、当初の計画通り研究は進んでいると考えている。
2016年度にはFBN1プロモーターCpG shoreの一塩基多型(SNP)を有する、FBN1変異F1個体群を作出した。これらの個体を継続飼育し、病態発現動態を追跡調査すると同時に、適宜採材を行い、正常・変異アリルを区別したFBN1 CpG shoreのDNAメチル化解析を行う。さらに、FBN1の発現抑制を目的としたRNA干渉を試みる。具体的には、ヒトU6 RNA pol IIIプロモーター制御下で恒常的に短ヘアピンRNA(short hairpin RNA; shRNA)を発現するベクターを用いて、FBN1 mRNAをノックダウンさせる。ゲノム編集技術を用いて、本ベクターを片方のアレルに存在するFBN1のエキソンに導入し、ヘテロFBN1ノックアウト(KO)状態のブタ胎仔線維芽細胞を樹立する。この細胞では、本ベクターから発現するshRNAの作用により、もう一方の正常FBN1 から転写されるmRNAがノックダウンされることになる。このストラテジーにより、FBN1の発現量がヘテロFBN1-KOとホモFBN1-KOの中間になる細胞株を樹立する。プロモーターCpG shoreにSNPを有するFBN1ヘテロF1について、新生仔の尾部よりFBN1を高発現する線維芽細胞を樹立する。プロモーターSNPの確認が取れたヘテロ欠損細胞株について、バイサルファイトシーケンス法により正常・変異アリルを区別したDNAメチル化解析を行い、特に正常アリルのメチル化状態とFBN1 mRNA発現量との相関を検討する。また、DNAメチル化状態を変更する薬剤(5-aza-dC、葉酸、ホモシステインなど)の添加により、FBN1プロモーターCpG shoreでのメチル化状態の改変を試み、正常FBN1 mRNA発現の変化を誘導できるかどうかも検討する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 図書 (1件)
J Reprod Dev
巻: 63 ページ: 157-165
10.1262/jrd.2016-158
巻: 63 ページ: 37-44
10.1262/jrd.2016-102
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 24413
10.1038/srep24413