研究課題/領域番号 |
15H02482
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 透 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20202111)
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研究分担者 |
勝間 進 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20378863)
木内 隆史 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60622892)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カイコ / 性決定 / 遺伝子量補正 / 組換え抑制 / piRNA |
研究実績の概要 |
カイコの性決定は、W染色体の存否のみで決定する。私たちはW染色体にコードされる小分子RNAの働きで、Z染色体の雄化遺伝子MascのmRNAを切断されることが、カイコの雌性決定の最上位機構であることを証明した。Mascタンパク質が、雄化とともにZ染色体の遺伝子量補正を支配することも発見した。本研究は、カイコにおけるMascタンパク質の性決定および遺伝子量補正の分子機構を解明するとともに、雌における組換えの抑制への関与についても明らかにしようとしている。また、それら機構を他のチョウ目昆虫と比較する。 (1) Mascタンパク質の機能の解明:カイコと同じカイコガ科に属するイチジクカサンを用い、Masc相同遺伝子(TvMasc)のsiRNAを初期胚へ導入し、遺伝子をノックダウンした結果、雄の胚子のdsx相同遺伝子の発現が雌化することが明らかになった。カイコの培養細胞BmN4へTvMascを導入した結果、BmdsxとBmIMPの性特異的なスプライシングが雄化していた。したがって、TvMascも雄化の機能を支配していると考えられる。 (2) Mascタンパク質のターゲット分子の同定: Mascタンパク質がどのように雄化と遺伝子量補正という2つの機能を発揮しているかを明らかにするために、培養細胞に組換えMascタンパク質を発現させてクロマチン免疫沈降(ChIP)を行い、得られたDNAの配列データを取得した。またBmN4細胞に、欠失等の変異を入れたMascタンパク質を発現させ、BmdsxとBmIMPのスプライシングを指標にして判定したところ、zinc fingerドメインは性決定には関与しておらず、タンパク質の中央付近にある2つのシステイン残基が雄化に必須であることが判明した。 (3) 間性系統を用いた性決定カスケードと組換えとの関係性の調査:カイコではW染色体による雌性決定機構が弱くなった間性系統が存在する。この系統を用いて、常染色体におけるマーカー遺伝子の組換えが雌でも起きるかどうかを検定するための交配を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
培養細胞の実験から、Mascタンパク質の雄化の機能には、2つのシステイン残基を含むアミノ酸配列が必須であることを明らかにした(Katsuma et al., JBC, 2015)。また、また、カイコに近縁のイチジクカサンでも、Mascが雄化に必要であることを示すことができた(Lee et al., 2015)。また、Mascを含む性決定関連遺伝子をCRISPR/Cas9でのノックアウトの作成や、ヤママユガ科など遠縁のチョウ目昆虫での性決定機構の解析も進んでおり、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Mascタンパク質の性決定に必要なドメインが明らかになったので、今後、核移行シグナルを同定するとともに、遺伝子補正に必要なアミノ酸配列を明らかにする必要がある。イチジクカサンのMasc相同遺伝子(TvMasc)が遺伝子量補正に関わることも証明する必要がある。一方で、エリサンのMascは性決定に関与しないことを示唆する結果も得られており、今後詳細な研究が必要である。 (2) Mascタンパク質の標的を明らかにするため、培養細胞に組換えMascタンパク質を発現させてChIPを行い、得られたDNAの配列を取得した。今後、これらデータのインフォマティクス解析により、特異的な結合の有無を明らかにする。 (3) 性決定機構と雌特異的な組換え抑制との関係を明らかにするために、今年度開始した間性系統による交配実験を続けて、遺伝学的な解析を進める。
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